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ア フ タ ー ザ イ ン ガ ノ ッ ク ──それは、彼が既に黄金の螺旋階段を昇った後のこと。 |
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やあ、諸君。 我が目的は輝ける“銀の機関”を得ることなれども、それは苦難の道のりであって並大抵の穴掘りでは叶うことではないのもとうにわかっていることだ。 お初の方々であれば我が名は覚えているが宜しい。時折眠りより目覚める我が脆き知性は決して裏切らぬし後悔させることもないだろう。私が語るのは狂気かその残り香であって、その中で呼吸する術こそ私そのものであるからだ。 そう、異形都市。 それをインガノックと人々は呼ぶだろう。 既に文明の灯りによって追いやられた《ふるきもの》たちが在った、41の声と幾つもの想いに満ちていた、閉ざされていた都市。閉ざされていた10年という時間の中で、数多の機関機械、数秘機関、現象数式、等々の異形技術が開花せし暗がりの都。 ──そう。 既にインガノックは解放された。 内であれば10年前だが外から見ればおよそ2年ほど前に発生したことになる《復活》によって外界と隔絶していた完全環境型都市インガノック。今や、そこには無数の異形こそ残れども、変異のクリッターは既にない。 誰もが都市を出ることができるし、周囲を取り巻く無限の霧は消え去って、誰もが都市へと入ることができる。変異した人々の住まう“かつての異形都市”へと足を踏み入れる勇気があればの話ではあるが、どうやら外界の人々にとってはインガノックの閉ざされた10年で生み出された生き抜くすべ、すなわち機関技術であるとか数秘機関であるとかは非常に魅力的に映るものであるらしい。特に、権力なるつるぎを持つ人々にとっては。 さて、そんなことは、どうでもいいことだ。 都市を脱出しようとする人々もある。 そして私は穴を掘る。 目に見えるもののすべては真実でしかない。目に見えることのない現実のすべてなどは、ただの障害でしかない。このランドルフである私にとっては。 さて、さて。 黄金螺旋階段のことを諸君は知っているだろうか。 ならば今日は、彼女の話をしよう。 かつては猫であるとか黒猫であるとか呼ばれた彼女だ。 彼女は、日々を過ごしている。 失われた10年の記憶、10年の空白を追い求めながら叶わず、進まんとする道を見失うまいと足掻き、それでも叶わずぐるぐると同じ場所を回り続ける彼女。 求めるそれは果たして何か。 ──さて。 ──耳を澄ませたまえ。
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