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──見覚え、なのかな。何。 |
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はっきりとした見覚えはない。行き交う異形の人々を見つめても心あたりは何もない、沸き上がる記憶も、ああそうかという実感も何ひとつないというのに。 どうして。 この区域を無限雑踏街と呼ぶことを、あたしは出発前に情報機関で読み込んだ下層情報一覧で一応は記憶していた。確かに名前の通り、延々と続く雑踏と喧騒は果てがないかのように思える。夜でも昼でもこの街の姿は変わらないらしい。 ふらり、とあたしは歩いていた。 「28区域……」 小さく、小さく呟いて。 呟きながらあたしは歩いていく。どうして最寄りのモノレール駅で降りずにこんな人混みの中へと降りてしまったのだろうと疑問に思う余裕は、あたしにはなかった。 恐いとは思わなかった。 あたし。 ──記憶はない。 胸が高鳴っていた。 なぜか、頭が少し痛い。まるで風邪を引いたみたいに。 ──歩く。 そして、あたしは辿り着く。第7層28区域のA−3アパルトメント跡。そこはどうやら10年間の間に建造されたものであったらしい。そう、跡。 そこには何もなかった。 瓦礫の山があるだけ。 かろうじて建物の形を保って人の生活の気配があるのはその周囲で、肝心のA−3アパルトメントは、なかった。瓦礫の山が積み上げられているだけ。 ──なによ。 あたしはその場に立ち尽くす。 誰もいない。 なぜか、そう、確信があった。 何も……。 何も……ない……。 「このアパルトメント跡に何か用か」 声があった。 黒ずくめの風変わりな容貌の男性。背が高い。風変わりであるというあたしの感性は10年前の古臭いものだから、この場合は都市に馴染んでいると言ったほうが適当なのかも知れない。ともかく、黒い男だった。 「はい、その……多分、ここに住んでる……住んでいた……かもしれない人に、用があって……」 「曖昧だな」 「……ごめんなさい」 「男か。女か」 「わかりません」依頼をしたという“誰か”の性別は、あのDヘッドも断定していなかったから。 「そうか。お前は、緑の石を知っているか」 「石……?」 「第7層28区域A−3アパルトメントに住んでいる男が石を集めていたという話を聞いた。お前の用向きは、それとは関係があるか、それとも無関係か」 「……いいえ……なに、石……ですか?」知らない。何、それ、石って。「……初耳です……ほとんどのことが、そうだけど」 「そうか」 黒い男はあたしを見ている。 「石の残滓が首筋にあるな」 「……?」 「女。お前の目当ては何号室の人間だ」 あたしは首を横に振るしかない。 そう、わからない。 あたしは、ここで手がかりを失ってしまったんだ。 「気落ちするな」 「……?」 ──何? 「俺は『M』。この都市の何処かに散らばった緑の石を探している西享人だ。お前は……」男は目を凝らしてあたしの右目をもう一度見る。「……そうだな、まだ、手を尽くした訳ではないだろう」 「え……」 「このアパルトメントの登録情報は拾ったか」 「い、いえ、まだ……」 「ならばまだやることはあるだろう。違うか」 「え、ええ──」 情けないことに、あたしは。 あたしは頷いた。 ──そうですね、とあたしは男に言いかけて──
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[sekien no inganock -what a beautiful people-] Liar-soft 21th by Hikaru Sakurai / Ryuko Oishi.
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