──モニカは我が目を疑っていた。
──全身の血の気が引いていく。既に、昂揚など、一切感じていない。
右手に携えた計器。
碩学機械たるそれを手にして、少年は身動き取れずに凍り付いていた。
都市全体を見渡すことのできる鐘楼の頂上部で、ただ、立ち竦むのみ。
フェルミ計測機関が告げる数値は、実に、ピンカートン探偵社における機密規定に記載された要度の上限を遙かに上回っていたのだ。
視線が計器から離せない。
超長距離用電信通信機を用いた報告にさえ考えが至らないほど、モニカは驚愕し、混乱していた。全身から熱が引いていた。いけない。これではいけない。
「メガコアトル出現級数値を、超えて、いる……」
『ウム(YES)』
「そんな、馬鹿なことが」
『イヤ(NO)』
冷徹な合成音声が響く。
我知らず、歯の根が鳴る。悪寒。寒い。
極寒で知られる北央帝国北部辺境ですら、ここまでの寒気は感じまい。
モニカは恐怖していた。
異常なまでのフェルミ計測数値の観測、それが何を意味するのか。余人には計り知ることのできない事柄、社の調査探偵が至上命題とするそれは、およそ人智を超えたものであるとモニカは認識していたが、それでも。それでも。この数値は。
このままではいけない。
数値が更に高まることがあれば、この都市は、恐らく──
「この都市が……」
『ウム(YES)』
「……このままじゃ、こ、ここで《大消失》が起こる……」
『ウム(YES)』
「お前の故障、なのか……」
『イヤ(NO)』
「なら、それじゃあ、ううん馬鹿な、そんなことがあるはずがないんだ。
顕現体が、ここに……いるだなんてことは……」
『ウム(YES)』
最早、合成音声の返答が耳に入っているのかどうか。
モニカはただただ戦慄し、そして、恐怖に唇を震わせるだけで。故に、気付くことはなかった。少年が恐怖に震えるその間も、地上で起きていた、とある出来事に。
──先刻見かけたプラチナブロンドの少女が。
──旧領主公邸へと駆けるのを。
|