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「……」 あれ。何これ。 きみはあんまり饒舌に喋るほうじゃないのに。 そんなに酒臭いかな、あたし。鳥と別れてここへ向かってくる途中、気分を変えようと別の店へ入ってカルヴァドスのボトルを何本か空けたのがいけなかったかな。 ──記憶が混ざる。 『きみが死ぬところだったのだから、きみ自身がもっと危機感を抱くべきだと僕は考える。わかっているのかい、アティ』 『……』 ──前にも、こんな風に小言を言われたっけ。 そう、あれは2年前のこと。ベアリング社の厄介ごとに巻き込まれた最初の頃、妙に口うるさいきみに、あたしは腹を立てたっけ。獲物を横取りされたような気になって、ううん、きみやスタニスワフがあたしを無視して裏で事を進めようとするものだから、あたしは怒って。 きみは文句のひとつも言わずに、されるがままで。あたしはだんだん申し訳ないような気持ちになって、仕方がないから許すことにして。 あの時は、まさか、きみがあんな風に無茶をするなんて考えもしなかった。戦闘行為なんてからきしの、数秘機関(クラック・エンジン)を埋め込んでもいなければ、攻撃用の現象数式だって使えないきみが、荒事みたいな真似をするなんて。あの時が、最初で最後。 「聞いているのかい、アティ」 「うるさいなぁ」 ──2年前も、こう答えた。 「ともかく。自制はしたほうが良い。酒とドラッグは、都市で生きるには足枷になることが多い。アティ」 「……うん」 ──2年前を、思い出すから。 あんな無茶をもう一度したら、きみは死ぬよ。どうしてあの時きみはああしたの。どうしてベアリング社の闇売買なんてものを追おうとしたの。とびきり強い《荒事屋殺し》があたしを襲った時、どうして助けたの。あたしは訊かなかったね、あの時は。2年前は。 あれから2年の間に、きみは元通りになったね。 だからあたしも尋ねない。 きみの気まぐれをあたしは問わない。 そうだと決めた。それ以上は考えない。考えたらいけないと、あたしの奥底であたしが言うから。視界の端で踊る道化師のことを、忘れなければいけないのと同じ。 ──そうだよ、ギー。 「……寝る」 「前に、新しい寝床を用意したと言ってなかったかな」 「用意したけど、荷物で埋まったの。 「そう」 「そうなの」 「では、おやすみ」 「おやすみ、ギー。……って、きみも眠りなよ」 「僕は」 「僕は、じゃないよ」 まただ。またこの調子。 ──きみだけなんだから。 ──そう。 あたしは、きみの手を引いて。ベッドへ無理矢理に横たわらせる。何か言おうとするきみの唇に、指を当てて。 「おやすみ。ギー」 「……おやすみ、アティ」 なんとか、きみに、眠ることを了承させる。 それだけだよ。 「灯り、消すよ」 「ああ」 「ギー」 「何だい」 「おやすみ」 「ああ。おやすみ」 「ちゃんと寝ないと、明日ひどいからね」 「善処するよ」 「うん」 ──灯りを落として。 ──そっと寄り添う。
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