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あなたはきっと心配していたのだと思う。 |
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「放っておくことはしません。 「そうだな」 車椅子に座った男のひと。 探して歩くの。 彼の車椅子を押しながら。 「あまり、無理はするなよ」 「はい。ご心配なく。 「心配はしていない」 「はい。ありがとうございます」 「礼も要らん」 「いいえ。あなたの命令は入力として受け付けられません。 「……やれやれ」 車椅子の彼が小さく微笑むのを、あなたは見ないのね。目にしなくても感じるものがあると、きっと、あなたは知っているから。もう、知っているから。 道すがら、あなたは捨てられてしまった機関精霊をひとり見つけるかもしれない。それは、他の廃棄されたものと同じように、第12層や、廃棄用の大型ダストシュートから捨てられたもの。もう要らない、置いてはおけない、と誰かにそうされてしまったもの。 あなたは、それを見逃さない。 「また拾うのか」 「はい。幸いにしてこの体には機関機械修復のための機能が備わっています。修復用の資材もここには豊富ですから。活用せずにいるのは、機能の持ち腐れです」 「好きにしろ。どうせ、お前たちの維持動力にはシリングがかかる訳でもない。せいぜい、上の連中の使い残しの機関動力を使ってやればいいさ」 「はい。そのつもりです」 そうして、またひとり、廃材の中から拾い上げて。動力も意識も失ってしまって動かない機関精霊を、あなたはどうやって車椅子と一緒に運ぼうかを迷うけど、だいじょうぶ。 ……だいじょうぶ。 彼は「仕方ない」と言いながら機関精霊を抱えて、車椅子だけを引けばいいとあなたに示すの。言葉はないけど、態度で、そう言うから。 再び歩き出す。 心持ち、急ぎ足で。鉄を食べる幻想生物に見つかってしまってやしないかと、心配しながら、見慣れた25007号の姿を探して、探して……。 やがて、あなたと彼は、昨日まではなかったはずの大きな瓦礫の山を見つけるの。それは小さな区域ひとつぶんあるほどの大きさで、建物ごと、街路ごと、工場ごと落ちてきた、お城のようにさえ見える瓦礫の塊。 上から落ちてきたのだと、あなたはわかるわ。 最下層でいつも鳴り響く、重くて低い音。 「これはまた、でかいな」 「はい。大型サイズの廃棄塊です。これほどのものは、この一週間では最大だと記録されています」 「蜘蛛のしわざだな」 「はい」 「生き物は混ざっているか」 「走査機関(スキャニング・エンジン)を起動します」 あなたの“目”が瓦礫の塊を見据えると、中に誰かがいるかがわかるのね。あなたの両親があなたのために与えた鋼の、機械の体は、そういう力をあなたに与えてくれた。 あなたにはできるの。 誰かが、その中にいるかどうか。 「……生体反応あり。機関精霊反応あり」 「あいつと、誰だ?」 「はい、いいえ。わかりません。機関精霊が25007号であることは確認できますが、人間については不明です。男性であるようです。ふたりとも、瓦礫の内部にいるようです」 あなたと車椅子の彼。 鋼の手足を備えたあなたは、車椅子に座った彼と一緒に、瓦礫にいる“誰か”の元へと向かうの。ためらわず、瓦礫のお城の中へと進むの。 ……瓦礫の中を進んで。 ──そして。 ──そして、あなたは──
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