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それは、あなたの直した機関精霊。 |
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機関精霊25007号。情報処理用の計算機関を作り出すはずの機関工場のレールの上に突然、ぽん、と生み出された、可愛らしい鋼の子。人の想いのままに動き、人の想いのままに働いてくれる、人の作る文明からこぼれ落ちた、インガノックにだけいる小さな鋼鉄の子供たちのひとり。 てくてく歩く機関精霊ひとり。 あの日、あの時、インガノックが産声をあげて立ち上がり、外へと這い出ようとした時。何ひとつ生み出されることはないまま、かたちを得ることのないまま、何もかもが取り込まれて失われてしまおうとした時。 だから動けなくて。 使えなくなった機関機械や壊れた計算機関と一緒に、路地裏に捨てられて、都市管理部のお役人さんの使うお掃除の自動機械に捕まってしまって。 インガノックのいちばん下にある、最下層。 濁った風に晒されて、濁った雨に晒されて、その機関精霊は朽ちてしまいそうになっていたけれど、あなたが見つけてくれたから。今は動くの。元気に、てくてく、きりきりとゼンマイが回るような音を立てながら。 ──てくてく、きりきり。 降りしきる雨の中を。 『ハイ、ナンデショウ? ボクニゴ用デスカ。見知ラヌ方』 「この層の端末か」 『イイエ。ボクハ違イマス。ボクハ25007号機関精霊。計算機械類ニ相当スル機関精霊デス。何カ、ゴヨウデショウカ? ゴ用デシタラ、オ力ニナリマス』 あら、あら? 話しているのは黒い男のひと。 「はは」 男のひとは肩をすくめて笑うのだけれど、おかしいわ。目元は笑っていないの。口元は、ずっと微笑んでいるのに、まるで何も感じていないみたい。 雨の中に佇む。 「小さきもの。 『ハイ。オチカラニナリマス! オチカラニナリマス!』 「面白い」 『オカシカッタデスカ。何カ? デモボク壊レテナイデス』 そう言って、不思議そうに機関精霊は首を傾げるの。 「石を探している」 歩きながらそう言って。 『石ですか?』 「お前は自分を計算機関だと言ったな。ならば、この都市特有の情報空間ネットワークとやらにも接続できるだろう。走査し、案内するがいい」 『エト、ボクラハ地図情報程度ニシカ繋ゲナイデスヨ』 「構わん」 『了解シマシタ! ──てくてく、きりきり。 ──機関精霊は、男のひとの影の中を歩いて──
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