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「なに? こないだの仕事(ビズ)?」 |
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「なにそれ」 「デカイ仕事やりやがった奴らがいるもんだって5層界隈のフィクサーもどきが気炎上げてるわ。雑踏街にだって流れてるんじゃないの、噂」 「あんまり興味ないのさ。タブロイドなんてどこも嘘ばっかり」 肩を竦めてあたしは言った。 興味ない。 あたしは黒猫。 タブロイドの3面記事なんてどうでもいい。 でも、なんだっけ。 「あたしも鳥も車輌の連中を襲ったけど、爆破もしてないし現ナマ積んだ馬車でもなかったし、研究者みたいな連中もいなかったし」 「でも全員やったのよねえ?」 爬虫類女が改造済みの端正な“人間の顔”で言う。表情は、笑顔。 よくわかるのさ。 「やってない」 「嘘。でもほら、全員死んだって」 「やってないってば」 殺しは嫌い。 「あー。じゃあ大方、会社契約してるハーバート医療社のワゴンじゃなくて都市管理部の清掃部隊あたりが来たってとこかしらね」 「かもね」 「そういえば、この話聞いた? 公務員の清掃連中は最近、1層や2層じゃ仕事減ったらしいわね。さらりまんは大抵が会社ぐるみでハーバート・ワゴンと契約するもんだから、あのあたりじゃ死体が作れないって。そのぶん5層以下の生きてる行き倒れを清掃するのに躍起になってるらしいわ」 「……そう」 「どうしたのよ、いやな顔して」 「清掃部隊の話とか嫌いなのさ。酒、まずくなる」 本当、酒のまずくなる話。 あたしは嫌い。 これなら情報屋あたりに安くない金を払って聞く“情報”のほうがマシ。 「……じゃ、そろそろ帰る。仲間によろしくさね」 「あら、もう? 今夜は朝まであんたと呑もうと思ってたのに。まあいいわ、お元気で。例の数式医さんによろしくね。ああ、今は、喧嘩してるんだったかしら?」 「きみこそ仲間の男連中と仲良くしたらいい。喧嘩するか色仕掛けするかっての、いい加減、やめたほうがいいと思う」 「ああうん、無理無理」 「そう?」 「連中、先月全員、仕事失敗して死んだのよ。警備兵がダイン重工製の新型機動鎧つけてたもんだから、あっさり。あれ、あんたまだ聞いてなかった?」 下卑た顔で笑う荒事屋たちの顔が思い浮かぶ。 そっか。 「……そう。死んだの」 一瞬だけ言い淀んだあたしの顔をまじまじと見て、両生類の女はあたしの嫌いなフェニックス社の1級ビールが注がれたグラスを掲げて笑顔を浮かべた。にっこりと。さよならと言う代わりに。 女の腹の“エラ”が言っている。 ──何でそんな顔してるのよ?
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