「……だれ……です、か……」

「……悪い、こと、は……して、いません……」

 

 私の想定していたよりも、その姿は人間に近く。
 明確な差異は存在していなかった。

 恐らくは血が薄いせいだろう。
 話に聞いた黄金瞳も、かぎ爪を伸ばす獣の手でもない。
 そのあたりに転がる貧民の子供と大差なく思えた。それでもプセールだと認識できたのは、薄紫色の髪のせいか。

 

「……なにも、しないで……」

 

 拙い英語で話す声に、もはや、生気はなかった。
 瞳は澱み、肌は泥と貧民どもの貪欲な汚物にまみれ、凍え死ぬ子犬と同じ震えが少女の体じゅうに満ちていた。

 植民地に於いて脱走した黒人奉公人と同じく、少女に待っているのは明確な“死”だった。
 水を与えた種子が芽を伸ばすように、
 少女は寒さと餓えと暴力に“死”を与えられていた。

 

 後に私が調べたところに依れば。
 この少女は、皮肉なことに銀貨10枚で親に売り払われた哀れな子供のひとりであるという。

 働かされ、傷つけられ、
 やがて襤褸切れのようになって倒れた。
 私が目にしたのは、その少女の死の瞬間だった。

 

 寒さと餓えと疲労が、命をすり減らす。
 霊魂と肉体とに死が満ちていく。
 絞り出す声が、残り少ない生命を終わりへと追いやる。

 冷たい土に腰を下ろし、壁にもたれかかって虚ろな瞳を虚空へ向けて。ゆっくりと迫る白くぼやけた死の闇に呑み込まれる瞬間──

 

「良い素材だ」

 

 声と共に。

 私は、少女へと差し伸べられる手を目にした。
 黒色い革手袋に包まれた冷たい手。

 何の感慨も抱かずにいた私は、その“手”が伸ばされたことにかすかな驚愕を抱かずにはいられなかった。
 そうだろう。
 意思に反して──

 

 ──伸ばされた右手は。
 ──私、アルフレッド・ウォレスの手だったのだから。






















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