イラスト:桜瑞
──すきとおった青空も、肌にしみる寒風も、まるで寂しさを助長する添えもののようだ── 高い煙突の先から流れる、細く黒い煙をぼんやりと眺めて、簸川樹里はそんな事を考えていた。ああして灰になって、母は天に昇っていくのだろうか……と、兄にでも聞かれたら目を丸くされそうな、感傷的な考えが胸をつく。 実際には、たなびく煙は遺体そのものを燃して出たものではないのだが、彼女にはそんな風に思えるのだった。 この焼き場は古いので、母が骨になるまで、あと2〜3時間かかる。朝早くに火をつけてから、まる半日作業だ。 となり合った寺の待合室には、もう身内の者しか残っていない。樹里は葬儀で寝不足の頭を目覚めさせようと散歩に出て、境内の裏手、墓場に通じる石畳の上をとぼとぼと歩いていた。 (……家族と、親戚だけ……まあ、当然か) 灰になるまでつき合おうという酔狂な他人が、母の知り合いにいるとは思えない。というより、あの母に知り合いと呼べる人間がいたのかどうかさえ、樹里は知らなかった。 通夜からこっちの弔問客も、みんな簸川の家の不幸を見舞いに来ただけで、母──簸川朱音の死を心から悼んでいたわけじゃない。薄情とは思わなかった。他人の存在を拒絶したのは母の方だ。あげくが狂い死に──人がそのように噂しているのはすぐ伝わってきた──となれば、関わり合いたくないと考えるのは仕方なしというものだ。 ただ、彼女の葬式が寂しいものだったのは確かである。故人を偲ぶ会話も、懐かしむ昔話もなく、どこか腫れ物にさわるような雰囲気だけがあった。樹里はそんな有り様をしょうがない、と冷めた目で見つめていたが、父も兄も居心地の悪さを感じていたのではないだろうか。 (これから納骨、そして初七日、四十九日、それから……しばらく忙しいんだろうな) 弔いといえば、都会では近ごろ簡便にすませる風潮があるが、とうかんもりのような田舎町では土地のやり方が根強く守られている。少なくとも一周忌を迎えるまで、身内の者はなにかとかり出されることだろう。 (そろそろ戻るか……兄さんたちを、いつまでも放っておくわけにいかないし) 先のことを考えてげんなりしながら、樹里はその場で振り返った。 その視界の隅に、チラッと誰かの影が映ったような気がする。 (……あれ?) 影は墓石の向こうに隠れてしまったようで、もう見えなかった。しばらく立ち止まってみたが、誰かが動く気配はない。 「見間違いかな」 疲れてるんだろう、と自分をかえりみて、樹里は境内に戻っていった。自分の背中を見つめる、何者かの視線には気がつかずに……。 やがて、簸川朱音の火葬と納骨はとどこおりなく済んだ。しかし波紋を生む小石は、まったく別の場所で投じられていた。
──「簸川朱音の死は殺人だ」というタレ込み電話が警察にはいったのは、その日の夜のことだった。