「──うっ!?」
樹里が絶句した。なにやら内部で葛藤が起こっているらしい。
頭の上で、リカルドがぼそっと訊ねた。
「何をしでかしたんですか?」
「教えてあげない」
「………………」
樹里はまだしばらく「でもアレは、刑事がどうこう言う以前に、女としてというか、人間としてというか……」とぶつぶつ呟いていた。
清香はそこにだめ押しをする。
「だからね、私も、本気でこの事件に取り組むつもりじゃなかったの。でも、昨日──たまたま知り合ったのが簸川さんの家だって知って、ならこのイタズラ事件、ちゃんと調べようかなって気になったわけ。あなたのお兄さんにも、お世話になっちゃったからね……。信じてくれる?」
おとり捜査が専門──というのは冗談だが、実際にそれを得意とする彼女は、演技には自信があった。というより、嘘をついているうちに、自分でも本気にしてきてしまう、特技(?)があった。心情はあながち嘘ばかりでもないので、この場合はさらに本気っぽく見える。いや、彼女は何とか眼前の少女の誤解(!)を解こうと必死になっていた。
たいしたことに、リカルドはその様子に呆れた顔ひとつ見せなかった。
「……はぁ……、わかりました」
樹里はため息をついた。納得したというより、どこかあきらめたというか、疲れたようにも見える。
「それで、うちに?」
「ええ、何か、悪意をもたれるような心当たりでもないかな……と思って」
樹里は首を振った。
「悪いけど、心当たりはないです。あの……」
と、真剣な顔で話し出す。
「この話、やっぱり、あたし以外の家族には内緒ってことで……いけませんか? 特に兄さん、まだふさぎこんでて……」
「……そっか。まあ朱音さんも、五樹には……だったしね」
夏生も腕を組んでため息をつく。
清香はその提案を呑むことにした。
「わかった。せめて、もう少し詳しいことがわかるまで、内緒にしておきましょう。リカルドくんも、それでいい?」
「那霧巡査がよろしいのでしたら」
「えっと、夏生さん……も、お願いできるかしら」
「あ、ハイ。わかりました」
「じゃあこれで、秘密の同盟結成ということで」
まるで子供のように笑って手を打ち鳴らす清香に、リカルドと夏生は苦笑し、樹里はどうしていいのかわからない、といった顔をした。
「それじゃあ、リカルドくんは丸山巡査長の方に連絡して、このことを伝えてくれる? あたしは、役所とやらに話を聞きに行ってみるから」
「了解しました。……案内はどうしましょう?」
「あっ、役所だったら、わたしこれから戻るから、案内できますよ」
「そうですか? ……それでは、すいませんが夏生さん、よろしくお願いします」
「──あ、あのっ!」
会話に樹里が割り込んできた。瞳に強い光をたたえて、まっすぐに清香を見る。
「その、イタズラ電話の犯人捜し、あたしも手伝わせてもらえませんか──?」
「え、それは……」
「お願いします!」
ぺこり、と頭を下げる。
「邪魔はしませんから!」
「樹里さん、でも……」
リカルドが横から口を挟もうとすると、樹里はさっと清香に近づいた。
「……手伝わせてくれないと、昨日のこと、バラします」
「──むむっ!?」
ニヤッ、と樹里が笑う。リカルドと夏生は理解できずに顔を見合わせた。
清香の逡巡は一瞬だった。
「……わかった。確かに、簸川さんちの人には協力してもらいたいもんね。あなた以外に内緒となったら、あなたに頼むしかないわ」
「ありがとう!」
顔をあげてほころばせる樹里を見て、リカルドは再び訊ねてきた。
「……本当に昨日、何をしでかしたんですか?」
清香はあくまで平静を装って答えた。
「教えてあげない」
つづく