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 「気を悪くさせてごめんなさい。──私は、那霧清香巡査です。県警から来たの」
 言って手をさしだすが、樹里は握手を返そうとはしなかった。
「……警察も、本気でその電話を信じているわけじゃないのよ。ただ、確認はしなくちゃいけないでしょう? たちの悪いイタズラであるなら、そのイタズラの張本人にも指導しないといけないし」
「それなら、地元の警察の人で充分だと思います。わざわざ県警から人が来るなんて……そういうの詳しくないけど、おかしくありませんか!?」
 強い調子で問いかける。いやはや、いくら頭に血が昇っているとはいえ、警官を前にこの度胸。たいしたもんだわ……と清香は内心で感心していた。
「そうね……でも、それには理由があるの」
 清香のハッタリに、リカルドは何も口を出さなかった。どうやら、この場は彼女に任せることに決めたらしい。
「理由?」
 疑わしそうな樹里の眼。清香は大きく頷いた。
「うちの捜査課──忙しすぎて、みんな休暇を消費できてないのよ!」
「……はぁ?」
「だからね、こーいうのんびりした田舎町の事件があると、持ち回りで担当して骨休めに来るの。ゆっくりお風呂につかって、美味しいもん食べるのよ!」
 にこやかに笑う清香の態度に、樹里はしばし呆気に取られた。が、すぐに我に返る。
「そ、そんな苦しい言い訳……」
「だって、昨日の夜のことを思い出してごらんなさいよ、樹里ちゃん。真面目に捜査に来た刑事が、あんなことしてると思うの──!?」



 「──うっ!?」
 樹里が絶句した。なにやら内部で葛藤が起こっているらしい。
 頭の上で、リカルドがぼそっと訊ねた。
「何をしでかしたんですか?」
「教えてあげない」
「………………」
 樹里はまだしばらく「でもアレは、刑事がどうこう言う以前に、女としてというか、人間としてというか……」とぶつぶつ呟いていた。
 清香はそこにだめ押しをする。
「だからね、私も、本気でこの事件に取り組むつもりじゃなかったの。でも、昨日──たまたま知り合ったのが簸川さんの家だって知って、ならこのイタズラ事件、ちゃんと調べようかなって気になったわけ。あなたのお兄さんにも、お世話になっちゃったからね……。信じてくれる?」
 おとり捜査が専門──というのは冗談だが、実際にそれを得意とする彼女は、演技には自信があった。というより、嘘をついているうちに、自分でも本気にしてきてしまう、特技(?)があった。心情はあながち嘘ばかりでもないので、この場合はさらに本気っぽく見える。いや、彼女は何とか眼前の少女の誤解(!)を解こうと必死になっていた。
 たいしたことに、リカルドはその様子に呆れた顔ひとつ見せなかった。
「……はぁ……、わかりました」
 樹里はため息をついた。納得したというより、どこかあきらめたというか、疲れたようにも見える。
「それで、うちに?」
「ええ、何か、悪意をもたれるような心当たりでもないかな……と思って」
 樹里は首を振った。
「悪いけど、心当たりはないです。あの……」
 と、真剣な顔で話し出す。
「この話、やっぱり、あたし以外の家族には内緒ってことで……いけませんか? 特に兄さん、まだふさぎこんでて……」
「……そっか。まあ朱音さんも、五樹には……だったしね」
 夏生も腕を組んでため息をつく。
 清香はその提案を呑むことにした。
「わかった。せめて、もう少し詳しいことがわかるまで、内緒にしておきましょう。リカルドくんも、それでいい?」
「那霧巡査がよろしいのでしたら」
「えっと、夏生さん……も、お願いできるかしら」
「あ、ハイ。わかりました」
「じゃあこれで、秘密の同盟結成ということで」
 まるで子供のように笑って手を打ち鳴らす清香に、リカルドと夏生は苦笑し、樹里はどうしていいのかわからない、といった顔をした。
「それじゃあ、リカルドくんは丸山巡査長の方に連絡して、このことを伝えてくれる? あたしは、役所とやらに話を聞きに行ってみるから」
「了解しました。……案内はどうしましょう?」
「あっ、役所だったら、わたしこれから戻るから、案内できますよ」
「そうですか? ……それでは、すいませんが夏生さん、よろしくお願いします」
「──あ、あのっ!」
 会話に樹里が割り込んできた。瞳に強い光をたたえて、まっすぐに清香を見る。
「その、イタズラ電話の犯人捜し、あたしも手伝わせてもらえませんか──?」
「え、それは……」
「お願いします!」
 ぺこり、と頭を下げる。
「邪魔はしませんから!」
「樹里さん、でも……」
 リカルドが横から口を挟もうとすると、樹里はさっと清香に近づいた。
「……手伝わせてくれないと、昨日のこと、バラします」
「──むむっ!?」
 ニヤッ、と樹里が笑う。リカルドと夏生は理解できずに顔を見合わせた。
 清香の逡巡は一瞬だった。
「……わかった。確かに、簸川さんちの人には協力してもらいたいもんね。あなた以外に内緒となったら、あなたに頼むしかないわ」
「ありがとう!」
 顔をあげてほころばせる樹里を見て、リカルドは再び訊ねてきた。
「……本当に昨日、何をしでかしたんですか?」
 清香はあくまで平静を装って答えた。
「教えてあげない」

つづく












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