「今宵もご機嫌麗しく、美しくも思慮深きカトリーヌ・ロレーヌ侯爵夫人」 「恐縮ですわ。1級子爵閣下」 「かのドーマン準筆頭侯爵の賓客と言う触れ込みなれば、如何なる女傑かと思いきや、斯様に美しい貴婦人でいらっしゃったとは。どうか、私の名と顔を覚えていただきたい」 「あら。私はこう見えて女傑そのものでしてよ」 「ならばその美しさと、星の歌声の如きお声こそが剣なのでしょうな」 「いいえ。この尊くも眩き王侯連合のレディたちには、きっと及びませんわ、閣下」 ──暗雲に満ちた世界の東に大国あり。 国の名は“王侯連合”。 それ故に、 世界を二分する力のひとつの頂点として、 所謂、こんなものは社会的常識というあれ。 もっとも。 今宵も社交界のパーティに興じるあなたたち。 それを口にはしないわ。 「ときに、子爵閣下?」 「何でしょう、レイディ・カトリーヌ・ロレーヌ」 「お恥ずかしい話をしてもよろしくて? 秘密のお話」 「無論です。おお、むしろ光栄の極み。ご婦人と秘密を共有することは連合紳士の誉れ」 「そこまで仰っていただけると、かえって、気後れしてしまいます」 子爵を相手に、私は、くすりと微笑んでみせる。 少女の成分をスプーン1杯、娼婦の成分を1つまみ、悪戯っぽさと申し訳なさを香り付けに幾らかまぶして、かつて欧州に数多いた古い古い魔女(ウィッカ)たちが視線と声とでそうしたように、1級子爵閣下に罠をかける。如何に、陰謀と暗躍と謀殺とに慣れた生え抜きの野心家貴族といえども、私にかかればこんなもの。毒にもナイフにも細心注意を払っているのでしょうけれど、お生憎様ね。 これは、毒でもないし。 けど、逆らえる男などそうはいないわ。 たとえば、鋼鉄(クローム)でできているのでなければ。 ──ひとの想いを友とした、この私には。 「実は、私、陶器に目がないのです。閣下。 「ジョサイア・ウェッジウッド公の陶器ですね。白の蕩ける見事な陶器と」 「ええ、ウェッジウッド公」 「所謂《機関革命》後に、碩学爵を与えられたほどの人物であるとか。 「ええ。そう。ローラ・ネーデルマン様と同じ、ジョサイアの名をお持ちの」 「レイディ、その名を口にしては──」 ──死ぬのでしょうね? もしも、ここが、両世界を灰色に変えた中心の北央帝国であるなら。 きっと、この場でただちにギロチンに駆けられていたでしょうね。 言ってみせたのだから。 ローラ。ローラ・ジョサイア・ネーデルマン。 無論、この私自身の愚かさを横に置いた上での話。 ローラ・ネーデルマン。 神なきカダスにあって神の如きひと、北央帝国皇帝に逆らった女。 ──私と同じ時代を生きた女。ローラ。 「侯爵夫人、いけません。万が一私が近衛の軍警察に」 「ご連絡なされば、私は、きっと、酷い目に遭うのでしょうね。 「レイディ」 「閣下は、第2首都のタインズマン筆頭侯爵と懇意にされていらっしゃるとか」 「何のお話を」 「更には、タインズマン閣下が後見をなさっている現連合皇帝陛下とも、 「……」 「わたし、先ほど言いましてよ。ドーマン閣下」 「……失礼しました。レイディ・カトリーヌ・ロレーヌ。 ──女傑だなんて。まあ、仕方ないわね。
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[Valusia of shine white -what a beautiful hopes-] Liar-soft 26th by Hikaru Sakurai / Ryuko Oishi.
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