※このウェブノベルには音声パートが含まれます。ご試聴いただく際にはご注意ください。

















 ──星々は見つめます。
 ──たとえば、溢れかえる現在と未来の源である無数の過去の煌めきでさえも。

















 

 もしも…。

 星々の瞬きが誰かの生の軌跡そのものであるならば。
 その尊さは、決して、誰にも、何にも穢されることはないでしょう。

 ならば今宵もわたしは導きます。
 星々の紡ぐままに。
 物語の拓くままに。

 この開放された砂漠の空の下で、ああ、今まさに輝いて、けれど自らの眩さにも尊さにも振り返ることのない、儚い星を。星々の瞬きは数限りなく、そして、命あるものの輝きも同じくあるなら、眩さも、尊さも、きっと、今も。今も。

 今も、この空の下で瞬いて。

 灼熱の砂漠都市ヴァルーシア。
 真の青色を知ったこの場所で。

 それは、この瞬間、砂漠都市でのこと。
 噴き出る灰色が僅かに抑えられた、けれども大機関塔3基が稼働を続ける場所。ここでは、広大な砂漠大陸で唯一、鋼鉄の群れを見ることができます。
 古きものの息吹が未だ色濃く残る稀有な都市であるけれど。
 青き空の下で、人々が暮らす、古き《盟約》の残るところであるけれど。

 ここに──

 ──ここに暮らす人々を。
 ──ここにも星々は輝きます。あらゆる世界の数多の街と、同じように。

 ならば今宵もわたしは導きましょう。
 星々の瞬くままに。
 物語の進むままに。

 空が在る。星々が見ている。ですから、こうして、わたしは、今も紡ぐこともできます。幼子の姿ならぬ2柱のアルトタスとヘルメースに導かれるままに。黒の王と、邪悪充つる《時間人間》の源たる虚空黄金瞳に見つめられるままに。

 古きものの息吹を受けて今もなお生きる彼女のことを。

 愛した者たちを想いながら砂漠都市に生き続ける彼女のことを。

 かつて空隠す白色の仮面に覆われた砂漠都市で。
 かつて空阻む《大天蓋》に覆われた砂漠都市で。
 既に今は開放された、ここで。

 機関と排煙に充ちた大国たる北央帝国は遠く、王侯連合からも遠く離れ、レン大陸はネフレン・カ王の遺した国も遙か彼方。太古に栄えたウルタールの遺物に囲まれて暮らす砂漠都市ヴァルーシア。星々の狭間を駆け抜け、星の海に夢幻と消えた爬虫人たちの地下都市と同じ名を有するこの都市で。彼女は、今日も、生きるのです。

 穏やかな日常を。
 彼女にとっては遠い日の記憶でしかなかった日々を、今、受け止めて。

 けれども。
 だからこそ。

 だからこそ彼女は、この都市に留まったのかも知れません。
 無数に提示された選択の中から、留まることを選び、旅立つことを選ばなかった。砂漠大陸南部に位置する勇猛にして情動なき珪素体たちの母船遺跡の噂に心惹かれても、無名大陸の樹木都市への留学の話に心躍っても、レン大陸の輝ける水の都からアデプトを招き入れる言葉がもたらされても。彼女は迷って、けれども、都市を旅立たずに。
 かつて、この砂漠の空を覆う白色の仮面が消え去った後に。

 彼女は、ここに留まる。
 自らの意思で。自らの想いによって、最愛の彼と共に。

 ──ですから。
 ──ここから先は、わたしではなく、彼女自身が紡ぐことでしょう。

 ──星々の見つめる、彼女の、その後の物語を。

 





[Valusia of shine white -what a beautiful hopes-] Liar-soft 26th by Hikaru Sakurai / Ryuko Oishi.
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