「恋とは何か、かい」 「ええ」 |
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「それはまた、難しい質問をするね。僕のリザ」 「そうかしら」 僅かに首を傾げて── 青空が在った。 見晴らしのよくなった部屋の中で遠慮がちに宙に漂うのは埃。掃除を怠っていた訳ではない。リザが、リザ・フォースがその気になれば、黒の王を構成するアルソフォカス顕現体と星々の深淵の彼方に繋がるディフの扉より採取された暗黒流動によって形成される最上位のショゴス型疑似肢が、たちまちのうちに部屋の隅々を滅菌消毒してみせる。 転居のために荷物を纏めた。 主人の脳髄そのものであるところの知識の僅かな一部を成す書斎から溢れ出た、ごくごく一部の、とはいえきわめて多量の本の山。触れることを避けていたそれを、今朝、纏めて運び出した。その際に、本からこぼれ落ちた幾らかの埃が、こうして宙に漂い、窓から差し込む中天の陽に照らされて。 転居は主人の思いつきだ、この都市を訪れたのと同じように。 ──次は。どこへ行くのかしらね。 次はどこへ赴くのか、リザは尋ねていない。 それでも。 ──心残りがない、訳でも、ないのよ。レオ。 「……私の質問には答えてくれないのかしら」 「すべて答えるとも。僕が、リザ、きみの言葉を裏切ったことがあるかい?」 「あるわ」 「僕が、リザ、きみの言葉を裏切ったことがあるかい?」 「あるわ」 「おや……。おかしいな……」 主人は眉根を寄せて、呟いて。 本気で言っているのだから、大したものね、とリザは溜息ひとつ。 この砂漠都市にとっての異邦たる西享での記憶の数々を思い出しながら。 「いいわ。なら、その話は改めて」 「改めるのかい?」 「あなたが答えられないなら、別の問いをするわ。 「ああ。確かに、大いに興味深いことではあるね」 「調べる?」 「いいや。それは無粋というものだよ」 主人は穏やかに告げて。 「あの子の願いの果ては、彼女自身だけが辿り着くべきものだ」 |
[Valusia of shine white -what a beautiful hopes-] Liar-soft 26th by Hikaru Sakurai / Ryuko Oishi.
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