遙かな異境の果て。青空と星空の下に在る砂漠都市──
そこは、アデプトと呼ばれる屈強な若者以外は外に出ることを許されない、広大な砂漠の中央に位置する巨大都市。1000年の長きに渡り、ドーム状の“大天蓋”で空を多い隠してきた、しかし現在では青空と星空とに見守られる都市、ヴァルーシア。
尊き血統を受け継ぐひとりの太守の決断により“大天蓋”は開放され、遠き世界の果ての“壁”を超えて訪れる列強の文明国家と交流を持ったことで、さまざまな人種と、機関と呼ばれる進歩的機械技術の流入が急速に行われ始めてから、数年の後のこと。
都市は姿を変えつつあった。“大天蓋”に守られながら、外を恐れて暮らしてきたはずの民は、列強からの異邦人や、大陸の北部および東部から訪れる異形種たちと交わりながら、1000年の慣習の揺らぎと歪みを感じ──
過去よりの伝統によってアデプトとなり、秘宝と危険に充ちた都市外の遺跡迷宮を探索する若者たちは、1000年の歴史を以て自分たちを管理してきたギルドが解体され、列強の一国たる“帝国”の息がかかった碩学協会による新たな管理の下、曲刀を振りかざして遺跡迷宮にはびこる妖物“ホラー”と戦い──
列強の人々がもたらした発展的技術たる“機関”はヴァルーシアの隅々にはびこり、機関工場や機関塔なるものが建造され続け、今日も青空へと機関排煙が噴き上げられるさまは、何処の移動ハレムからも眺めることができた。豊かさと繁栄とを約束する“機関”を、太守と都市の人々は受け入れたが、しかし──
原因は定かではない。ただ時期が重なっただけかも知れない。
けれど、けれど。この半年というもの、本来であれば迷宮にしか顕れないはずの“ホラー”が都市に出現するという事件が頻出していた。巨大な、かつての“大天蓋”にも届きそうなほどの巨躯を備えた、超大な“ホラー”が──
人々は“大天蓋”を開放したことにより訪れた異邦人たちに戸惑いながら、“機関”のもたらす大いなる繁栄に喜びながら、巨大なる“ホラー”への恐怖に怯えていた。そして、巨大なるその妖物を一夜のうちに打ち砕きながらも、正体を明かさずに暗闇へと消えていく巨像に対しても、同じく。
太守もまた、同じく。列強のひとつたる“帝国”の姫を宮殿へと招き入れるものの、彼は、何よりも誰よりも、都市の変化と“ホラー”への恐怖に怯えていた。
そして、或る星空の夜に。
ひとりの少年が輝くものを目にして、ひとりの青年が愛するものを知って、ひとりの娘が星空の意味に触れ、ひとりの刺客が後悔の涙を流して。
やがて、ひとりの歌姫が、旋律と共に物語の旋律を紡ぎ出す──
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