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イ ン ガ ノ ッ ク テ イ ル ズ ──それは、彼が未だ黄金の螺旋階段を昇る前のこと。 |
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やあ、諸君。 根源たるものを私はこのインガノックで見つけることができなかったが、そもそも、そんなものを探していたのか探していなかったのかは定かではない。 お初の方々であれば我が名は忘れるが宜しい。このランドルフなる名は銀の機関と無形の鍵によって既に呪われており、カダスと西享のどちらの《ふるきもの》たちにも忌み嫌われ彼らの王にさえ呪われているのであるから、もしも貴方が西享人であるならば、やはり、忘れるが宜しい。 かつてのインガノックは私にとって心地よい側面が少なからず在った。 ──そう。 ならばインガノックの話をしよう。 10年前に発生した《復活》によって41のクリッターとさまざまな幻想生物(モンスター)は、人々からおとぎ話を奪い取った。理由はひどく単純。クリッターであっても幻想生物であっても、概ねの場合、誰かがどこかで夢見たものであったからだ。例えば本の中で、例えば空想の中で、例えばおとぎ話の中で、幼い頃に夢見たものにどこか似た怪物──概ねの場合、それらは人を襲う。特に初期発生した幻想生物の多くはクリッターと同じく人を害した。機関精霊のように無害なもののかたちなど当初はなかった。 だから人々は忘れた。捨てた。 下層の人々はそうしておとぎ話を語ることはなくなり、代わりに、逞しくも混乱の中から復活しようというタブロイド紙が《復活》以前よりも華やかに隆盛した。おとぎ話を失った人々は、噂話に飛びついた。それは確かに人間同士の社会の現実から生み出される事実であったりすることもあったが、大抵はそこから生み出される別の逸話であった。 曰く、機関競技場の公立賭博制度が変更するであるとかしないであるとか。 さて、さて。 ならば今日は、そんな噂話に耳を傾けた彼女の話をしよう。 しなやかに都市の夜を駆けた彼女だ。 彼女は、まだ黒猫と呼ばれていた頃。 いつも聞こえてくる噂話。 ──さて。
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