コローネのお部屋探訪・第5回
「アン個室」「クローエ個室」「右腕通路」


 3件目の暴行事件。その発生に学園執行部は夜間外出禁止の徹底を呼びかけ、ポーラースターセキュリティは機関部の船員まで借り出して警備を強化した。
 ピリピリする学園職員達とは対照的に、学生達はのんびりとした日常を取り戻しつつあった。
 御嬢様たちには、乙女の花篭ポーラースターで連続レイプ事件が起きるなどということが現実離れしていて、事件が遠い世界の物語のように思えるのだ。
 その点はニコルも同様で、最初のころの緊張感は薄れつつあった。

 昨日、杏里とデートするまでは……。

ジュディ「一日10分。踏むだけで理想のボディが手に入るってわけなの」
ジョン「そいつは凄い。ボクも早速踏んでみるよジュディ」

ボキ

ジョン「足が! 足が!」
スタッフ「HA〜HAHAHA」
ジョン「逆に! 逆に!」

 吹っ飛ぶ洗濯機、火を噴くフードプロセッサー、テイク30まで演奏された大正琴。
 DVD『テレフォンショッピング傑作NG集』は痛いハプニング編に入り、度を越した展開が増してきた。
 プリンスエドワード風にまとめられた部屋。その床であぐらをかいたニコルがスナック菓子をかじり、俺もビーフジャーキーを噛み千切る。
 くだらない映像を見ながらジャンクフードを喰う。こんな時間もいいもんだ。
 そう思って上げた視線が、同じ事を考えてたらしいニコルとかち合った。
 あれ? なんか忘れてる気が……。
 
ニコル「って、なんで、こんなDVD見てるんだ」

アン「はい、それでは歌のコーナーに参ります」
 でんぐり返しでテレビの前に近づいたアンが、電源をオフにして立ち上がる。
 どうしてだろう、歌を聴かされるのは3度目のような気がする。
 部屋に立ち込める甘ったるい匂いを振り払いながらニコルは問い掛ける。この光景も3度目かも。
ニコル「待て。歌はもういい。頼むぜ、真面目な話をしに来たんだから」
 学園7大危険エリアの一つに数えられるアンシャーリの個室では、振舞われる食事はもちろん、息一つにも注意を払わねば大変な目にあう。
アン「あら、イタリア人には効きにくいオクスリだったのかしら」
 アンはがっくりと肩を落として呟く。
 やっぱり、すでに一服盛られていたのか。毎度の事とはいえ、アンもよく飽きないものだ。
アン「ほら、私ってばアンシャーリーなわけだし」
 心を読まれてる? 
ニコル「えーとだな。アンは3日前に杏里とデートしたよな」
アン「ええ、マリアナ海溝は深かったわ」
ニコル「そのときに尾行されなかったか?」
 3度目にして、やっとニコルはアンの不可思議な答えに突っ込みをいれずに質問を続けた。
 時々見えることがある、アンの周囲で踊る黒いヤツが、不満げな声を上げて飛び上がり天井に消えていく。
アン「…………居た」
ニコル「PSか?」
 アンは首を縦にふった。
 昨日のデート中、行く先々に現れるPSにキナ臭さを感じたニコルは、その真意を探ろうと情報集めに動いていた。
アン「でね、杏里は5日前はクローエの部屋で無声映画を見たのよ」
 唐突ではあったが内容のある発言に、ニコルも俺も驚いた。
 おさげを右手で弄りながらアンは言葉を続ける。
アン「もうすぐ杏里に大変なことが……」
ニコル「大変?」
 あ、黒いヤツが戻ってきた。大中小の3匹が、クルクルとアンの周囲を飛び廻る。
アン「大変……大変なのはDVDってこと。FC通販で申し込んだ人は包みの中をよく確認しないと特典のピンズを見逃しちゃうかも。幻想シナリオの出現条件が細かくなったから全部出すのは大変、大変。ご不審な点はユーザーサポートに電話かメール。攻略系の質問は攻略掲示板へ。アンケートハガキは送るが吉よ」
 なんだか具体的な事を言ってるっぽいのに、内容がさっぱりわからない。

 いつもの調子に戻ってしまったアンシャーリからは、それ以上の情報を聞き出すことは出来なかった。

クローエ「で、ここに来た……と」
 真鍮の伝声管が並ぶ壁、整頓された地図、所々に置かれた船舶模型。博物館めいた、生活感のない空間。
 俺もニコルも初めて入ったクローエさんの個室は、噂以上に奇妙な部屋だった。
 興味津々と、伝声管を見ていたニコルが手近にあった真鍮の蓋を開けたとたん、沈黙が支配していた部屋に予想外に大きな笑い声が響いた。
ニコル「う! ぁ……悪い」
 ニコルが焦って蓋を閉じ、どこかの談話室の声はピタリと止まる。
クローエ「まったく……腹立たしいわね。バベルの塔で、神は言葉を分けるのではなく、声を奪うべきだったのよ」
 眉間に皺を寄せたクローエさんは、そう吐き捨てて、再び分厚い本に目を下ろした。
ニコル「で、あの」
クローエ「確かに5日前に杏里は此処に来たわ。でも、ずっと部屋の中にいたから尾行があったかはわからない」
ニコル「そう、そうだよな、そっか……」
 返事するニコルの視線は寝室に続くドアを見つめている。
 色々想像してるのだろう。複雑な心境だなニコ。
クローエ「そうね……」
 少しだけ視線を上げてニコルの横顔を見たクローエさんが、パタリと本を閉じた。
クローエ「確かに不穏な動きはあるのよ。一昨日の捜査会議で杏里の名前が挙がっていたわ」
 その会議部屋に続いてるのか、窓際の真鍮管を見つめるクローエさんの顔は、陰鬱な苦悩を帯びているように見えた。
クローエ「学園は、事件の幕引きを願っているわ。それも一刻も早い幕引きを」
ニコル「でも、それと杏里とは関係が……あ!」
 俺もわかった。
 でも、それは無茶だ。幕引きどころじゃない。どん帳を切って落とすのと同じだ。
クローエ「どう転んでも煩くなりそうでしょ。最悪よ」

 クローエさんの言葉は、その4日後、月曜日に現実となる。
 その日。朝の見回りをしていた俺は、杏里の部屋をノックするPSを見つけた。

 数度のノック。やっと起きてきた杏里にPSは固い声で告げる。
PS「杏里・アンリエット。学園長がお呼びです。今すぐ制服に着替えて一緒に来なさい」

 それは、杏里だけに留まらず、様々な人間の運命を左右する3週間の幕開けだった。


ゲーム本編へ続く


■このコーナーでは、アンエピックで新たに追加・修正されたポーラースターの内装を毎回紹介いたしました。残りのキャラクターや、他に一新された背景などは、是非7月30日発売のゲーム本編でご確認ください。

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