──おや。
 ──おやおや、これは、可愛い仔猫とは。

 こんなところまで迷い込んで来てしまったのか。
 可愛らしい仔猫。
 名前はなんという?

「──」

 なるほど。
 ふふ。可愛い名だ。
 どうやら、きみは  であるらしい。
 私のような者の前に顕れてしまうとは、きみは随分と優しい  であるらしい。
 それとも、自分が何者であるのかを定めかねているのかな。

 ここはヒュプノスの領域にほど近い。
 そちらへ行ってはいけないよ。

「──」

 いや、そちらはいけない。
 薄暗いバーがあるだろう。あすこに行ってはいけない。
 あすこにはひとならぬものどもが集う。
 イリジアのものたちがきみを見れば、きっと、何か思い違いをするだろう。
 黒の王の機嫌が悪ければ、ひとのみにされてしまう。
 もっとも、黒の王も近頃は変質したようだけれど。

「──?」

 いや、きみにはわからないことだったか。
 きみが行くべき場所は他にある。
 できれば、そこへ至って欲しいものだ。

「──?」

 きみに助けを求めている人物がいてね。
 そう、人間だ。
 きみに縁(エン)があるとも言えるし、そうでないとも言える。
 きみの母の、更なる父祖に関係があると言えばわかりやすいかな。
 いや。わかりにくい表現か。これは。

 きみは選ぶことができる。
 きみは夢を歩き、夢を渡り、幾万、幾億、幾星霜の果て、物語られる世界を渡ることができるだろう。きみが  であるかどうかに関わらず。

「──??」

 きみの祝福には、力があるんだよ。
 きみが幾千、幾万の瞳に、想いに祝福されたように。
 きみにも同じことができる。

 物語を渡るがいい。
 世界を渡るがいい。

 さあ、きみにはすべてが許されている。
 何を成すのもきみ次第だ。

 たとえば、そう。
 空間を超えて。
 時間を超えて。
 ひとり、旅して魂の寄る辺へと戻ったジャガーと出会うこともできるだろう。
 ひとり、機関の都市で幻想の残滓を狩る《探偵》を見ることもできるだろう。
 ひとり、朽ちゆく雷を見ることもあるだろう。
 ひとり、嘆きの紅涙を見ることもあるだろう。

 きみ次第だ。
 きみが、何を望み、何を求めるのか。
 私には残念ながら知り得ないが──

 

 ──願わくば。
 ──きみが、優しき   であらんことを。