「さあ、瞼を開けてご覧。嗚呼、何とも荘厳な眺めじゃないか。見たまえネーエル、長らく冷戦状態にある北央帝国と王侯連合が手と手を取り合い睦み合ったがために地上に生まれ出た、これが我々の切り札たる《鋼鉄の子供たち》だ。白銀とはまた、美しい」

「……これ、は……」

 

「私の騎士団だよ。驚いたかい、ネーエル・サザン」

「はい。閣下、私は形容する言葉を持ちません。これは……」

 ──カダス北央帝国中央部、深い黒森に覆われた大戦斧山脈の地下機関工場にて。
  ──或る一組の男女が大型格納庫を訪れていた。

 可動式整備橋から見下ろす格納庫に居並ぶのは、無数の人型。白銀に煌めく“騎士”の如き甲冑を纏った身長9フィート大の人型が数百機。全機共に、ごく小型にして高出力を誇る、非量産型の碩学式機関(ハイ・エンジン)を搭載し、先代の北央皇帝たるヒュブリス帝の提唱した机上理論“人工筋肉”に覆われた四肢を白銀の特殊複層装甲に包んだ、戦闘用車輌である。正式名称は対機動要塞用戦闘車輌《ウルマース》。
  カダス世界最強を誇る北央帝国の軍事力を成立させる機動要塞群、英国を始めとする西享諸国に於いては未だ“架空の兵器”の域を出ることのないそれらを打ち砕くため、極秘に設計・開発・製造された鋼の騎士たちである。

 戦場へと赴く巨人の国へと至ったような錯覚に、ネーエルと呼ばれた細身の女性士官は悪寒を覚えていた。北央皇帝血族に連なるが故の“両瞳の”黄金瞳は、彼女の感覚と意識へと僅かな悲鳴を滑り込ませる。
  これは、いけない。
  これは、あまねく破壊をもたらすものである、と。

 ──史実の書に記録された“1914年”をもたらす可能性のひとつ。
  ──既に戦車の開発されたこの世に在って、機動要塞と共に、更なる破壊を生む。

「閣下。マタイオス閣下、私には、これを理解できません。なぜ──」

「ネーエル」

「申し訳ありません、閣下、私は、ただ」

「いいんだ。続けてくれたまえ」

「……はい。なぜ、こんなものが必要なのでしょう。機関兵器たる機動要塞は我が国、我が空軍の主力兵器たるものです。最大の敵国たる王侯連合の力を借りてまで、何故、あなたはこんなものをお造りになられたのですか」

 それは、ネーエルがこの数年、胸に秘めていた疑問。
  レイディ・エイダを除く政府高官に秘匿とし、進められてきた極秘の開発計画。それ自体からは遠ざけられていたとは言えども、計画の立案者にして推進者であるこの男性、若くして帝国最高の将となったマタイオス・ノン=デュ三軍元帥に自分は側近として使えている身。それを彼が望むが故に、あらゆる情報はネーエルの耳へと入る。

 ずっと尋ねることのできなかった疑問だった。
  返答を恐れていたからだ。

 ベヴェル戦役の英雄と臣民に讃えられながらも、戦火が導き得る数多の死と殺戮、過剰なまでに破壊を撒き散らす蒸気機関兵器群による“いくさ”を忌み嫌うマタイオスが、新たな兵器で以て新たな“いくさ”を引き起こさんとしているのかと──

「機動要塞は現在の世界に於いては最強の兵器だ。王侯連合はおろか、文化・芸術・生産技術では我が帝国を上回る西享諸国でさえ、軍事力では我が空軍に敵うことはない。であればこそ、私は、かつて“ン=カイの奇跡”を起こした機動歩兵にその活路を見た。戦車随伴用の軽車輌として開発された古い兵器だが、ン=カイ王国の発想は、完成されたはずの機動要塞理論に穴を穿つ唯一のものであるとね」

「軽車両マゴグによる、碩学戦車の撃破……」

「その通り。よく勉強しているね、私の愛らしい姫君。そうだ、巨大な蒸気機関兵器群の火力に対抗し得るのは機動力のみ。そしてそれは、図らずもウルメンシュの彼らが証明してみせた。故に、私は、この騎士たちを生み出した。今は魂なき鎧のみだが、練度の高い兵士を搭乗させれば、機動要塞さえ破壊し得る。わかるね」

「はい。……しかし、なぜ、機動要塞に対する必要があるのです。未だ、王侯連合でさえ、機動要塞理論の獲得には至っていません。それを、こんなにも大量に」

 ネーエルには理解できない。
  機動要塞を撃破するとマタイオスは言う。けれど果たして、彼は、ネーエルが心の奥底より愛してやまない若き元帥は、この騎士の軍勢を率いて“誰”と戦うつもりなのか。

「わかりません。私には。あなたは何と戦うつもりなのですか、閣下」

「それは──」

 何時如何なる時でも雄弁さを失わない男、マタイオス=ノン・デュ。
  しかし、彼はその時、言葉を切って。
  躊躇していた。
  語るべき言葉を、探して──

「──無論。我が無敵の北央帝国と、だよ。可愛いネーエル」

「閣下……?」

「おっと。ストップだ。乱心している訳ではないし、熱も出ていない。そんなに不安な顔をしないでおくれ、私だけの夜鳴き鶯(ナイチンゲール)。これは、この白銀の騎士たちは一種の保険さ。私とレイディ・エイダが悪辣なる“皇帝家”に敗れた時、無敵を誇る我が帝国は世界へ牙を剥くだろう。破棄されたはずの《史実の書》は現実となり、かの偉大なるヴィクトリア女王が目にした悪夢が地上へと降り立つこととなる。
  私が何を言っているかは、わかるね。ネーエル」

「はい。ゾシーク計画。西享歴1914年を幻視したという……」

「鮮血の真紅と恐怖が地上を覆い、明日は閉ざされる。その時こそ、これは稼働することとなる。拡大と侵略を国是とする“皇帝家”が帝国の全権を再び握ったその時、この騎士たちだけが抵抗の刃となり得るだろう」

「……閣下」

「理解して貰えただろうか。ネーエル・サザン」

「……はい……」

 ──ネーエルは頷く。
  ──言葉には、できなかった。

「はい。……閣下、私は、私はあなたと共に在ります。
  あなたが望む限り、サザン家と私の“黄金瞳”はあなたを支え続けます」

「ありがとう。私の、私だけのネーエル。
  きみの愛がある限り、私は、ベヴェルへの贖罪を続けることができるのだから」

「はい。いいえ……」

 

 ──この騎士たちこそが“1914年”を呼び込む可能性のひとつである、と。
  ──告げられずに。ただただ強く、唇を噛む。

 























[Sharnoth of pitch black -what a beautiful tomorrow-] Liar-soft 24th by Hikaru Sakurai / Akira.
TOPPAGE / EXIT(LIAR HP TOP)