機関都市ロンドンに彩りを添える、瑞々しくも輝きに充ちた“華”について現在編集部では鋭意取材中である。否、本記者が鋭意取材中である。華。それは何を指すものか。無論、諸兄にはおわかりのことであろうが、敢えて語るのであれば、シティエリアに佇む“とある”王立施設に通う女学生たちであると言う他はない。

すなわち、碩学院の女学生たちである。英国及びカダス地方を含む諸外国から招聘された優秀な碩学たちが教授職を勤める、特殊高等教育施設たる王立碩学院で学ぶことを許された、男子院生たちに比べればまだまだその数は少ない、優秀な頭脳を備えた年若き女性たちである。

ご存じの通り、碩学院とは、優秀で若い頭脳を保護し育成し、国家と王室の発展に貢献する碩学を効率的に排出することを目的として、1889年、碩学排出へと方針変換を行ったパリ大学に対抗する形で設立されたものである。英国王室の管理下にあり、学生たちは一切の学費が免除されることもあり、非常に優れた教育システムとして成立していると評価すべきものであろう。

しかし。しかし。記者はこう考えるのである。他にも評価すべき点があるのでは?

朗らかにシティエリアを歩く、あの瑞々しくも輝きに充ちた女学生たちは、旧きロンドンには存在しえなかった、新たな独自文化を生み出しているのではないだろうか。そう、他の名門大学に比べても女学生の数が比較的多い(それでも男子学生に比べればずっとずっと少ないものだが)碩学院は、年若き文化を生み出すという偉業を為したのであるのかも知れないのだ。もしもそうであるのなら、我々の知り得ない、彼女たちの世界を覗いてみたいと諸君は思わないだろうか?

うむ。実に、記者は覗いてみたい。

であるので覗いてみることにしたのであった。以下は、現在進行中の取材の際、幾人かの碩学院に通う女学生から聞き取った言葉の幾つかである。

・よく行く遊び場? 近場ならビショップゲートあたりのショッピング・ストリートで。証明写真用篆刻機関もあるし、友達と写真を撮りまくることも。

・ソーホーのミューディーズで新刊チェックは必須。資料になる本も、趣味で楽しむための小説も、こまめにチェックしないとすぐに誰かに借りられてしまうから。

・洋服店ならソーホーの個人商店で一から仕立ててくれるところがおすすめ。布地もいいし、素敵なレースも結構あって。機関工場製の大量生産品にはあんまりかわいいものがないし、それなりにデザインは選べるけれど、結局どこかの誰かとそっくり同じ服を着るのはあんまり、あんまり。もしも同じ服を着た誰かと出会ってしまったら、恥ずかしくてどうにかなりそう。

・でも、たまに、レイディ・エイダの設計した機関カードを用いたという大量生産品が出てくるから油断できない。そういう時はみんなで我先にと手に入れようとなって、大変。

・あと、パリの服飾芸術家たちが、同じように縫製用の機関カードを設計する場合があるの。それも、凄くいい。パリでは、そういう人気服飾家たちのコレクションが来年にも開かれるっていう噂。

・ハロッズ巡りで油断しちゃうのは、危険。時計を気にしながら歩かないと、気付いたら夜だったなんてこともたびたび。香水も化粧品もアクセサリーも最新の携帯電信通信機も、傘も帽子も、見てるだけで時間が飛んでいくから。人気店の新作ケーキの発売時には行列ができることもあるけど、誘惑に負けて並んじゃったら負け。まず時間を取られて満足できないうちに門限の時間になっちゃう。

・髪飾りの新作もチェック。これはソーホーのものより断然ハロッズ。つい最近まで最新の樟脳処理セルロース製髪飾りが流行してたけど、あれは熱に弱いからって、実習の多い機関工学科の女学生は付けるのを禁止されてしまって……。

・スコーンの自動製造機関はハロッズの中にあるのもだめ。大抵、焦げてるから。

・最新型機関機械や碩学機関の展示コーナーには男子学生を連れて行くと喜ばれる、っていう話をよく聞くわ。試運転に立ち会えると、もう、男子は大喜びで。でも、そこではしゃぎすぎる男子はだめなんですって。あと、近くにフィッシュアンドチップスのスタンドがあるけれど、そこで食べようって誘ってくる男の子も、同じく。だめ。

・ハロッズの証明写真用篆刻機関はおしゃれな意匠が縁に施されていて、素敵。でも、ちょっと値段が高いのでお財布には注意しないと。もしも男子と一緒にいるなら、そこで躊躇う素振りをするかどうか、チェックは必須……って、彼氏のいる友達は言ってたわ。

・本当に好きなひとがいるならハイドパークへ誘うの。クリスタルパレス跡公園の陽光を浴びると両想いになれるっていう、噂があるから。

・噂。夜道を歩くとあれに襲われるっていう噂は、院にも。ジャックじゃない。夜、ひとりでいるとジャックに襲われると子供の事は言われたけれど、最近は違う。今は、暗がりの《怪異》に襲われるともっぱらの噂。黒い体。紅い瞳。大人から子供まで、ひっそりと囁かれる、ロンドンじゅうの噂。

・噂。夜、電信通信機が通じにくくなることがあるっていう噂。

・噂。あまりにカダス古語や碑文の解読の成績が良すぎると、カダス北央の帝立研究所にスカウトされるらしいの。今年の始め、もカダス南方の砂漠へ連れて行かれた院生がいるっていう話を聞いたわ。もう、院の機関情報書庫には名前も残っていないって。

と、これらは彼女らの言葉のほんの一部である。諸君も、記者の言う独自文化について感じるところがあったのではないだろうか。あったであろう。あったはずだ。もしも感じるところがあったならば、編集部までぜひ応援の手紙をお送りいただきたい。本記事が正式に連載を許されるかどうかは、諸兄の双肩にかかっているのだ。

〜『The Daily Mail』1905年10月02日号記事より抜粋〜