───シーガル十日町店トークイベントレポート───

───十一月二十六日未明。クローゼットの中から今冬初めての鳶(インバネス)を引っぱり出す希。東京ではまだいささか気が早く、重たげな衣装ではありますが、イベント会場は山形。東北の冬の寒気にはこれくらいの備えが必要なのです。

スケジュールの都合があって出発は始発、しかし乗った電車が途中で非常停止。幸い数分程度の停車で済みましたが、なにやらのっけからネタを提供されたような気分となりました。

事務所で広報担当の山原氏と待ち合わせた後、秋葉原へ移動、そこで今回の移動用車両を用意して下さった流通の方と合流してから、いよいよ一路山形へ。

……実は今回のイベントで希が一番危惧していたのが、この移動中の天候です。というのも希には妙なジンクスがありまして、自分が山形に帰郷すると、天気が荒れることが非常に多い、というもの。夏なら台風に見舞われて電車が止まり、七時間ほど車内に雪隠詰めされたものですし、冬なら地吹雪がザラにあることです。……ご存じでしょうか、豪雪地帯では、吹雪が激しくなると、強風が積もった雪を巻き上げて、地面からも雪が吹き荒れるような状態となります。これを地吹雪と称します。では春秋はどうなのかと申しますと、幾度かは四月になってもやはり吹雪に祟られましたし、秋は秋で、その地方では滅多に見ない、それこそ伸ばした自分の腕の先も見えないような濃霧となったりしました。自分はこの悪天候化を、山形の地の歓迎と考えていますが、今回ばかりはそうもいきますまい。

なにしろお招きしている原画の酔花様は、今回の移動は飛行機で現地集合です。天候が荒れれば飛行機の運休も有り得るわけですし、自分達も山形まで辿り着けるか怪しくなってきます。天気予報を見る限りではどうにか保ってくれるとの事でしたが、内心では相当に冷や冷やしておりました。

まあ、結果的には途中の山あいのあたりでちらちらと風花を見たりして戦々恐々としたものの、どうにか保ってくれまして。山原氏か或いは流通の方がよほどの晴れ男だったと見えます。現地ではしっかり昨日に霙(みぞれ)がびしょびしょ降っていたといいますし。

で、今度は空港に酔花様をお迎えに行くのですが、この山形空港というのも周囲にそれらしい施設や案内がなく、田園地帯の中にぽつんと佇んでいるというなかなかに侘びた空港でして。山原氏などは、管制塔を見ても、「あれJA(農協)かなにかが煙突立ててるだけじゃないの?」と正直な感想を漏らされたものです。

で、無事に酔花様とも合流を果たし、遂にイベント会場、シーガル十日町店舗様へ。

市内の表通りに面した、明るい雰囲気のゲームショップだったのですが───

山原「うーん、シーガルさん、このお店前面のガラス窓に、山人考のポスター貼ってくれようとしたらしいんだよね」
希「まじッスか!?」

流石にそれは沙汰止みとなったようですが。

そしてシーガル様のお隣というのが、その名も、

  『紅の蔵』

という物産展でして、これにもびびる希。べ、紅殻町からの出先機関か!?

※           ※           ※

───成人向けPCゲームコーナーに案内されますとね、まずこれがお出迎えしてくれるわけですよ。

 

葉と花があしらわれた木板風のディスプレイの奥、ちょっと暗くなった影の中にムービーを流すモニターが浮かび上がる。実に風情のある飾り付けで、こちらの店舗様はそういえば前作『信天翁航海録』の際も、船の甲板を模した飾り付けを行ってくれたりと、えらく凝ったプッシュをして下さっており、メーカーとしては本当に有り難い限りです。

希「これは……なんとも良い雰囲気のディスプレイで……」

酔花「凄いですね……」


このディスプレイの隣には、ライアー・レイルスペースが。

 

こうやって過去作が並ぶと壮観です。中には自分もパッケージ版では所有していないブツが混ざっていたりで、ちょっとだけ欲しくなったりもしました。

山原「希さん、こっちこっち、こっちも」

希「はいはいなんでしょう───あ」

 

希「……こうして実際に張り出されているのを見ると、実感がひしひしと湧いてきますね……」

山原「だねえ」

この他にも、棚の一列に本作「山人考」をずらっと並べて下さったりもしていたのですが───

希「うちらの段と、下の段の他のメーカーさんの箱とは、その……色合いからしてえらく違うような」

山原「それは今更言わないように」

ともかく、こうして店舗様に入りまして、お招きいただいた店員様からも温かな歓迎を受けまして、じわじわとイベント開催の時間が近づいて参ります。

希「お客様、どれくらいいらして下さるでしょうね……」

山原「そうだね、最悪店員さんと我々だけの『希と酔花さんを囲む会』とかになったりしてね」
希「ちょっと!?」

まあ、そうやって軽く脅かされたりしましたので、それらしいお客様の姿が会場内に見えた時はそれはもうほっと胸を撫で下ろしたものです。幸いお客様も徐々に増えていきまして、最終的には……そうですね、こちらの希望的観測を上回る数のご来臨を見る事ができました。やれやれまずは関門はクリアできましたか。

まあそんなこんなで開催が近づくと共に今度は自分の方の緊張が高まってくるわけです。

以前にいた会社で、お客様の前に出ることは何度かあったのですが、それも早10年くらいも前のこと。今はすっかり引き籠もりの売文家となったわけで、考えてみればトークイベントといって、果たして場を繋げます事やら。

実際、開催前に山原氏はこう言いました。

山原「希さん、あんたちゃんとお喋りできますか?
  なんだったら、開始前に一杯引っかけておいて緊張を解したって良いんですよ?」

希「それは……ひどく心惹かれる提案ですが、いや、大丈夫です」

山原「本当ですか? 或いは、喉湿しのドリンクのペットボトルの中身、こっそり酒に替えておくって手段だって」

希「なんでそういう誘惑をするんですか。く、揺れるな俺の心。酒は覚悟を鈍らせる(なんの?)」

希「……だいたい山原さんだって、俺が呑み出したらとまらなくなって、緊張を解すどころの騒ぎじゃなくなるの、ご存じでしょうに」

山原「そーねー」

とかなんとかやりあいながら、いよいよ開催となったわけですが───近い。

会場が店内の一画というスペースの都合上、お客様との距離がえらく近い。最前列のお客様とは膝を突き合わせんばかりの距離感です。当然、マイクなどもありません、というか必要ありません。

事ここに至って、希は色々観念したと言います。

───こういう距離感で、変に気取った事を並べ立てたところで───

───お客様、会場はどんどん寒くなるばかり───

───ならばいっそ───

───色々、さらけ出してしまった方が───

……で、こう開き直った希が、どういう喋りをやらかしたと言いますと。

会場での、質疑応答を一部抜粋して見ていただいた方が早いでしょう。

 

Q・シナリオライターになったきっかけはなんですか。

A・その昔、PBM(プレイ・バイ・メール)というゲームがありまして。かいつまんで言いますと、毎月読者参加型の短編小説が送られてくる、という形式なのですが、その短編小説を読んで、
「これだったら自分でも書けるよな。というか自分が書いた方が良いんでないの?」
  とかなんとかクソ生意気なことを考えまして、まあそのフォーマットで書いてみたところ、書けてしまったわけです。なので後年そのPBMを開催していた会社でライター募集がかかった際、意気揚々と応募してはみたのですが。辛うじて補欠合格に引っ掛かったというありさま。かつ以前に書いてみたモノというのも、社内のライターさんは皆自分の10分の1の時間で書いており───小生意気な若造が小生意気なことを企んで、その天狗の鼻っ柱を叩き折られたところから、希のライター業は始まっています。

Q・希(まれに)という筆名の読み方、少し風変わりですが、何かご由来が。

A・こういう仕事をしている人間にありがちな、とかく作中の物や人の名前に、えらい大層で長ったらしい語を用いてしまうという、まあ言ってしまえば中二病的な一時期が自分にもありまして。その時期に読んでいた、好きな漫画家さん、おおのやすゆきという人の作品があるのですが、これの登場キャラクターからです。「鳳凰院凶真」的な名前ばっかり考えていた自分にとって、シンプルな希の字一文字、なのに風変わりで一度見聞きしたら忘れない響きの読みにノックアウトされまして。爾来それを用いています。つまり希の筆名は、小生意気な若造の中二病が叩き折られたところから始まっているわけです。

Q・レイルソフトで一番思い入れのあるタイトル・キャラクターはどれでしょうか。

A・タイトルは、やはりデビュー作の『霞外籠逗留記』です。もうアレにはのっけから色々自分の業(カルマ)を詰めこみましたので。
  キャラクターはと言いますと……こういう劇中のキャラクターというのは、基本的に作者のペルソナだったり内面の投影だったりしますので、それの好悪を語るというのは何やら病的な自己顕示の発露となりかねないので、ここではご遠慮させていただきます───
  などと、どこか聞いたような言はこの席では興醒めですので、そうですね、『信天翁航海録』の殺し屋、智里です。あれは持ちキャラの中でも一番二番くらいに古くて愛着があります。
  女性キャラとなると『紅殻町博物誌』のエミリアです。彼女は外見だけだといかにもな外人キャラですが、その中身は一昔前の、日本の理想的な「お姫さま」なので。あの一途な健気さ、一旦なびいてしまったらふにゃふにゃになるあたりなど、我ながらたまらぬ。

Q・なるほど。ですがどちらかというと希さんは年増、熟女好きという印象があります。

A・それは多分……そういう年頃にある女性の、感情の機微を描くためには色々細々とした描写がどうしても必要になるので、それを細かく書いているだけですよ。

Q・では姉妹ブランドのライアーソフトで好きなタイトルとキャラクターは。

A・ずばり『腐り姫』で、簸川芳野さんですね。
  このタイトルは、蔵から始まる物語なのですが、その蔵と聞き、そして物語の概容を知って、
「おのれえええええライアーソフトめええええ、俺の頭の中を電波で覗きやがったああああっ」
  とかなんとか好き勝手なルサンチマンが爆発したのはいい想い出です。蔵モノ……先にやられた……。
  で、芳野さんというのは主人公のお母さん的な存在なのですが、盲目で、裡に秘めたエロスを必死で押し隠してているような人で───

山原「やっぱり年増、好きなんじゃん」

希「あれ?」

Q・『霞外籠逗留記』の令嬢が好きでたまりません。結婚するにはどうすればいいでしょうか。

A・また難儀な相手を……そうですね、こうしましょう。まず霞外籠を10本お買い上げいただければ、あなたはモブキャラとして公式外伝なりに登場する権利を獲得します。100本お買い上げいただければ、あなたと令嬢のエロスなシーンを書き下ろしましょう。ボイスも採り下ろしで。なんだったらあなたご自身がご自分のキャラのボイスを当てたっていいですとも。
  ……ところでこの質問下さった方、どうやらこちらの店員さんのようなのですが───ちょっと店員さーん!?

Q・『信天翁航海録』のクロが好きすぎて生きるのが辛い。

A・また難儀なキャラを好きになったもので……。

山原「あんたが難儀なキャラしか書かないんじゃないか」

 えー……、クロに限らないのですが、基本的に希が書く物語のキャラクターというのは、自分の業(カルマ)の諸々を詰めこまれて造形されています。つまりあなたはあなたで、希の業(カルマ)に反応する業(カルマ)を持ち合わせていると言うことで、それはつまり……別にクロが好きだから生きるのが辛い……とかではなく、そもそも始めから……そういう人生……と言うことに……ところでこちらのご質問下さった方は、どうやらここの店長さんのようなんですが……ちょっと店長さん、店長さーん!?


……とまあ、終始こんな感じでありました。会場ではもっとアレ気な発言もしたような気もするのですが、レコーダーの類を持っていくことを忘れたので、もう自分の中でも朧気です。しかし時間にして1時間半+α、その間ほとんど喋り通しで、始まる前の危惧はどこへやら、ではありましたが、それでも1年分くらいは喋ったような。

なんにしても、会場は良い雰囲気で、希としては何か弾劾裁判的なものでも始まってしまったらどうしようと警戒していただけに、お客様達の暖かな反応は本当に嬉しくありました。

中には遠隔地から足を運んで下さった方もあったようで、このイベントを開催して下さったシーガル十日町店の方々、お客様の皆様には、感謝の気持ちが尽きません。

 

※           ※           ※

一方、希がろくでもないコトを喋りつづける脇では、酔花様が凄まじい速度でそれはそれは美麗なサイン色紙を製作されていたのでした。

 

写真の色紙では店舗様用にあらかじめ書かれておかれたものですが、会場でも同じクォリティの色紙が次々に描かれて。酔花様も本当にお疲れ様でした。

───ところで。どなたですか、酔花様へのキャラクターリクエストにあたって、本作山人考ではなく、『紅殻町博物誌』の宵待白子をご注文された方は。お陰で酔花様の描かれる白子という、えらいレアものが誕生してしまったじゃないですか。

……基本的にこういうことはいけませんよ、いけませんからね? ……羨ましいけど。

 

※           ※           ※

その後はシーガルの方々と酔花様と我々で打ち上げ。

山形の酒肴に舌鼓を打ったわけですが───大丈夫。希はちゃんとホテルまで自分の足で帰れましたよ。なにしろふらふら路上で寝こけようものなら、リアルで凍死直行の時期ですし。

(しかしお判りいただけるだろうか。この写真は帰投後のホテルの個室内だが、画面右上に空のビール缶が見えるのが。つまり希は、戻った後でも一人で……)


───レイルソフトでお仕事を始めてから、今回初めてお客様の前に出たわけですが、今後もこういう機会が持てれば、と思います。

各地の美味しいお酒が呑みたいから、というのはもうこの際隠すだけ無駄なので、隠しません。

 

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そして帰りの道々、宇都宮SAでガメラと遭遇する我々。


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(おまけ。近頃ツイッターを始めた希の、道中でのツイート)

@mareni14  シーガル様のイベントに向かうため、今冬初めての鳶(インバ)を出す。まだ早いとは思うし重いのだが、山形の寒さにはそれぐらい備えないと。 それでは出撃します───

@mareni14  今日は馬場で電車が非常停止…だと…?

@mareni14  よかった、動き出した…。

@mareni14  流通の方と合流。これからお車で移動。 高速に乗るのは久しぶり。

@mareni14  羽生PAでずんだシェイクを食す。なにこれ美味しい。…寒いけど。

@mareni14  間もなく阿武隈。道中の景色に紅葉が混ざり始める。

@mareni14  郡山。遠景の山肌に雪を見る。路上にはちらほら落葉が吹き流されてきている。

@mareni14  国見SA。おや何かぱらつき始めたような。風情だ…などと言ってられっかーー! 荒れてくれるなよ…。 あと試食のあぶら麩汁美味しゅうございました。あったかいは正義。

@mareni14  高速をおりる。微妙な空模様。

@mareni14  とりあえず言っておかないと。 山形よ、私は帰ってきた!

@mareni14  酔花さんと合流。 …空港がね、なにもないところにぽんとあって、少し戸惑いました。

(この間はイベント中につき、ツイート途切れる)

@mareni14  イベントじわじわと終了。 一年分くらい喋ったような。

@mareni14  ホテルに到着。暫し休憩の後再出撃。 戦いはまだ続くのだ。

(再出撃というのは、要するに打ち上げの呑みの事)

@mareni14  どうにか五体満足で帰投。あとは酒を呑んで寝ます。シーガル十日町店舗さま、今日は本当に有り難うございました。 しかしズボンは脱がないそれがこの俺スパイダーマン。 なぜならその方が途中の酒の買い出しが楽だから

@mareni14  酒を買いに行ってきます。 しかし期間限定の札幌開拓使麦酒。 これ美味いのだけれど、中身、エビスビールとえらく似通っているような。

@mareni14  …宇都宮SAでガメラと遭遇。スマホの電池切れなのが悔やまれる。

@mareni14  宇都宮を過ぎた辺りで牛の載ったトラックを追い越す。目が合う。「ぼく、売られていくの」 …瞳が哀しそうだ。

@mareni14  事務所に到着。これにて今回のイベントは終了。 細かな感想や諸々はまた後で。