〜写真編〜

『花散峪山人考』の時代背景は、二つの大きな大戦の谷間という事になっておりまして、この現代からはまあ大まかに言いますと、戦前、と総称される時代であります。第二次世界大戦後、急速に生活様式の変化を迎えた、我々の時代とは共通しているところもあれば隔たったところも多い時代です。
例えば、映像文化。当節では出版やTV、映画、そしてネットと世の中に氾濫している映像画像ですが、当時ではまだ映画も無声時代、写真もようやく個人間での撮影が広がってきていたような黎明期でありました。それでも人々の中に次第次第に膾炙し、確固と根づこうとしていたのは、絵画のみでは伝えきれない情報を人々が求めたせいもあったでしょう。しかし、新しいメディアが広がっていく場合、事にこの日本においてはある一つの力の介在を看過するわけにはいきますまい。
すなわち───性への関心。
すなわち───エロ、ポルノへの興味。
これがあってこそ、写真という当時においては新奇な技術も大きく広く受け容れられていったのでした。
事実、この日本においてのポルノ写真の歴史は古く、明治期においては既に上野彦馬なる人物の手によって、遊女を被写体として撮影されております。もちろんこういった所謂「風俗紊乱」の要素とされるモノには、お上は今よりよほど厳しく、出版法によって制限されてはいました。戦前では文章においてすら、男女の営みをちらとでも連想させるような記述があった場合、たちどころに発禁処分が下されもしました。
ただ、こういった情勢下でも、例えばあの大森貝塚発見の壮功のあるアメリカ人学者、エドワード・モースのコレクション中にも、日本人女性の裸体写真が散見される程度には出回っていましたし、また日露戦争に従軍した兵士の中には、春画やポルノ写真が弾除けのお守りになると信じて持ち歩いていた者もあったそうです。
それでは、こういった撮るのも売るのも違法であった猥褻写真がどのように遣り取りされていたのかと申しますと───
例えば、祭に出される夜店の列の一画で。ちょっと見にもいかがわしげな男が、道行く男性の袖を引きます。で、素早く手の中の写真を見せるわけです。ちらりと、見えるか見えないか微妙な勘所で。これを無視するならそれで良し、もし興味を持ったなら、写真売りは物陰に彼を引き込んで、一セット……そうですな、大体がところ三枚で、それで一円から一円五〇銭、くらいの相場で、旦那、いかがですか、とやらかすわけです。現在の貨幣価値からすれば、大体七五〇〇円〜一〇〇〇〇円弱と、けして安い買い物ではありません。
勿論ばれれば買い手にもご用の手がかかるわけですから、売り手もそれをかさにペテンも多うございました。中には四十八手のセットという触れ込みで買ったれば、力士、相撲の決め手四十八手の図だった、という笑い話もあるくらいで。
しかし本物の、裸体の婦人の写真、はおろか、交合の様相まで映し出されたものも出回っていたのも確かです。そういった猥褻写真達の遣り取りの情景はおおよそこんな風ではありましたが、では、それらが如何様にして撮影されていたかと申しますと───

※       ※       ※

 

───瀬川K香は、不審な思いを残しつつも、それでも師事する教授の命に従って、郊外の住宅を訪れていた。近頃流行りの、清潔だがどうにも趣というものに欠ける、建て売りの文化住宅である。
その夜、擬洋風の応接間でK香を待ち受けていたのは、下町の土方人足と思しき、つまりはK香が属する学窓の世界とは縁が薄いとしか見えない男で。
K香の艶冶に熟れた、年増女の肢体に遠慮なく下卑たほくそ笑みを漏らすような男で。
どうやらその男も、教授に命じられて待機していたらしいのだが、一向に要領を得ぬ受け答えに焦れて、早々に辞そうとするK香に───襲いかかった。むんむんと汗臭い肉体で、壁際まで追い詰めた。
無論K香とて抵抗したのだ。この時代ではまだ珍しい、社会進出を果たそうとする女なりの気概というものもあった。しかしそんな気概など、「あんたのK先生のご命令だよ。あんたを犯せと命じられている」と師の名前を出されては、怯まずにいられず、そして怯んだ隙に、まだ珍しかった洋装を荒々しく剥ぎ取られた。
そうやって下着姿にされてしまうと、最早戸外へ走り逃れる事も叶わず───
男の野卑な、そして欲望に猛った視線に、K香の瀟洒で、かつ扇情的な藤色の下着姿が晒される。
───まるで男の、欲望の受け皿として造られたような豊麗な肢体と、ビスチェのカップから零れだした乳房と、艶やかなストッキングに覆われて艶めかしい太腿、腰回り、何もかも。
男を獣に変えるには、充分に過ぎた。
「あぁ――あ!? や、そ、いやああ――むゥ!?」
悲鳴がくぐもる。重ねられた唇の中で。
拒む手を強引に胸板で押し返す。
「ぷ――はぁ――えぅ!?」
「ずぅ――じゅ……」
息苦しさに唇を開いた瞬間を逃さず、男はK香の口内に舌を侵入させる。
ただ味を感じるための器官なのに、それが同じ舌と絡まり合うことの心地よさ。男を一層加熱させていく。
「く……む……んんー……んんぅ……っ」
這いまわる男の舌から逃れようと顔を振るのさえ、彼へ口内の角度を様々に味合わせる助けとなってしまう。
「れるぅ……ン、は、はあぅ……ちゅ……んぅっ」
口に注意が逸れたか、男の胸板を押し返そうとする手から力が抜けかけて。
その隙を逃さず乳房のほうにもと、男が手を被せたとき、一瞬K香は瞼を見開いた。
「駄目……そこは……いや……」
K香の羞恥の元。陥没した乳頭。他人に触れられることはおろか、見られる事すら厭うそこに、男は容赦なく手を掛けて、その乳暈の裂け目に指を潜らせて───
途端に。乳房を覆う手に軽く力をこめられ、乳暈の中をほじられただけでK香の瞳の焦点はかすれて───
「ちゅ、む、んく……くぅぅ……ん」
唇を貪りながら、熟れに熟れて、強く力を籠めれば千切れてしまいそうなくらい柔らかな乳房を揉みしだき続けるうち、K香はほとんど抵抗の意志をみせなくなっていた。
結い髪も、ばさりと、K香の心を示すように解けて豊かに、けれどどこか物哀しく流れて肩に背中に広がり落ちる。
「ぢゅ……るぅ……」
どれだけそうしていたのか───殆ど一方的にK香の口内を貪って、男はようやく顔を挙げる。
───唇と唇の間にかかる、唾液の雫をつらねた細い糸の架け橋。
K香も、本気で拒むならば、舌を差しこまれた時点で噛むなりすればよかったものを、それが出来なかった段階で、既に流されつつあったのだろう。
「ひゅぅぅ……は───ぁ」
「こんな……ひどい……強引に……」
男は───K香の。
ぐったりと力なく垂れた手を見て。
解けた結い髪、乱れた髪のうねりに。
普段は知的で品の佳い物腰のK香の、花が散ったように儚く、そして喩えようもなく淫蕩な姿に───浮かべた笑み。女を堕とすことを愉しむ、男の、深い満足の。
「あ!? なに、なにをするつもり……」
ショーツの横紐を解き、取り去った時も、まだ意識がぶれているらしく、K香はほとんど抵抗を見せなかった。
けれど太腿を抱え上げ、けむるような、髪と同じ亜麻色のくさむらに顔を近づけた時、息遣いを感じたか、
「いや……見ないで、そんなところ───」
二枚の襞肉は、一見慎ましやかに閉じ合わさっていたけれど、男が指先で割り開けば。
「あ、あ、だめぇ……」
内部は熱い蜜、夥しく含んでいて。
口振りでは拒んでいても、舌粘膜同士の触れ合いと、乳房への愛撫が彼女の体に蜜を呼んでいたのだ。
女の肉体がしっかり感じていた、その反応に喜々としたように、男は舌先を秘裂へ寄せて───押し当てた。
「あ……あったかい───」
「……ち、ちがッ、今私、なにを……ね、もうよして、貴方───今ならまだ───くふぁぁぁっ」
「なに……どうしてぇ……どうして……あ、やっ……そんなこと……舐めないで、今日はまだ、お湯も……ち、違……そういうことでも───ぁっ」
腰を逃そうとするけれど、男は太腿を抱えこんでそれを許さない。
K香の蜜の味を感じつつ、強く、弱く舌を遣う。
「ひ、ひぃう……あう……どうして、これ……こんな……」
「いやあ……もうやめて……おかしくなるぅ…私の体、おかしくなる、から……」
「ふくぅっっ!?」
男が舌肉の上の方、こりこりと結ばれてる部分に舌を乗せたとたん、K香の腰が浮き上がった。
女の一番敏感な芯、捉えられて、たやすく反応、してしまう───
「や、や、やぁぁ……よして、そこは、私、あぁ……っ」
「許して、あ、あ、あああっ、貴方ぁっ」
熟れた体は、淫核への刺激に容易に応えてしまうのだ───喜びをもって。
男の髪の中に指をくぐらせ、押し返そうと───いや、引き寄せようとしているのか?
ならば、と男は、かえって重点的にそこばかり責めたてた。
舌先を尖らせ、吸い立てた、強く強く吸い立てた。
「〜〜〜〜〜っっっ」
声もなく。
ぎゅと、太腿で男の頭を締めつけ。
緊張と───弛緩。
「今あんた───気ィ遣ったな?」
無意識に拭った口元が、ぬる、と滑った。
口元の周りに移るくらい蜜を溢れさせ───K香はぐったりと荒い息をつくばかり。
しどけなく開かれた両脚、すっかりほころんだ秘裂が、ずくんと響く───男の雄の器官に。
もうずっと前から骨でも入ったみたいに硬くいきり立ち、下穿きの中がぬるついている。
女の体を求める、先走りの汁で。
───女も男も濡れているのなら。
「なら───そろそろ、だな」
「え、あ……? ───あ」
「あなた……なに、を……」
太腿を抱え上げ、腰を押し進める――尖端が肉のあわいをこづいた時になって、K香はようやく事がどこまで進んでいるかを認識したらしい。
「あ……っ。まさか───本気で、私を?」
か細い声だった。
数度、ぬめらかな肉の入り口を上下にこすりあげる。
熱を持った粘膜のふれあう、独特の感触。
「どうして私はこんなに───」
「弱いの……?」
「ごめんなさい───」
誰に謝ったのか、それはK香自身にも判然とはしていなかったろう。
眠るように閉じた、瞼の縁から伝う、ひとすじの――建て売りの文化住宅の安っぽい照明の中でも、それは綺麗だった。
綺麗だったから、余計に男を煽りたてた。
「ぁぅ……っ」
男がさらに腰を押し進めれば、尖端が浅く潜り、特有の熱さに包まれる。
目を閉じたままのK香の顔をじっくり鑑賞しながら、壁に縫いとめるように体重をかけた。
「あぁ……あ……」
ずるりと。
一気に。
「――――――ぅぁ」
男とK香の股間は密着し、雄の器官は粘ばりつく熱さを感じていた。
「――――――あー……」
語尾が哀れに切なくかすれて消える。
口では拒んでいたにもかかわらず、肉茎の尖端から根元までを、K香の肉壺は全て呑みこんで。
「あ、あ、熱い……貴方の、おなかの奥まで───あつい」
よこざまに背けた顔に、流れてかかった髪の下から。
「厭がっていたのは、口だけだな。
あんたのま○こは、しっかり奥まで、
くわえこんでるぜ……っ」
「そんな、私そんな、
いやらしくなんか……ひぃうっ!?」
男が腰を使い始めたのに合わせて、K香の声が跳ね上がる。艶を含んで。
K香の膣内は柔軟に、いかにも房事にこなれた風情で、男の剛直全体にしっとりまとわりついていた───
「いきなり……動かないで……」
「いきなりだ? あんたの臀だって、
吸いつくみたいにくねってたろうが」
「…………!」
はっとしたように口をつぐんだK香だったが、男の言葉は事実としか言いようがなく。その豊麗な臀は、男の突きこみを受けて喜ばしげにわなないて、そして埋められた硬さ、熱さを確かめるように蠢いていたから。
「そんな……そんなこと……ないわ……。
だから……動かないで……ふぁぁ……っ」
ゆっくり───ゆっくり───
道がつけたばかりの膣内に、自分の形を憶えこまそうとするように、男はゆっくりと、しかし着実に律動を続けていく。
そしてK香の女の壺は、男の抽送に応えている、応えてしまっている。男が腰を引く時は行かないでとすがりつくように、突き入れてくる時は、嬉しげに迎え入れるように。
「んぅぅ……お願い、もう止めて、
これ以上は───」
「聞けねえなあ。こんな良い孔、滅多にねえ。
顔では澄ましかえってるくせに、
こっちの孔の方は、
そこらの売女より、よほど───」
「言わないで、そんな、私は違う、
そんな娼婦のような……ひぃ、あっ!」
「違わねえよ、ぐにゅぐにゅで、ぬるぬるで。ざらざらしてて、ああ、気持いい肉の孔だ」
「いや───そんないやらしい言いかた、しないで……ふぅ……あ、は」
……始めのうちは、男は立ったままの結合で、剛直の長さとK香の肉壺の深さが掴めず、何回か抜けてしまいそうになっていたが、やがて感覚を掴んできたのか、動きが次第次第に、滑らかに、そして激しく。
「おら───どう、だっ?」
「あああっ!」
問いかけながら、臀の円みに指食いこませて持ち上げ、雄の器官でK香の最奥を強く貫く。
すると、たちまち伸びあがる媚声と共に、男の肉の茎全体に、何重もの歯のない口で食らいついてくるような快感。そして、尖端がこりゅこりゅした生硬い感触に引っかかる。
「───あ、はぁっ!?」
膣の最奥が引き金だったのか、K香の声の音階が更に甘やかに上擦り───男はほくそ笑んだ。獲物の急所を捉えた狩人の笑みだった。
「ここ……か?」
K香の臀を抱えこんだまま、奥をかきまわすように腰を遣う。
「あ───あ、あ、あ……っ、それ――それは、だめ……っ」
「奥のほうで貴方の、ごりゅごりゅっていってる……んんぅ……そんなにされる、と、わたし……壊れ……っ」
「……感じてるんだろ?」
「感じてる……? ふあ、私、感じてなんか、こんな、無理矢理されて……」
「……あんたは、そうされてよがる女って事だ。強姦されて、犯されて、その方が!」
「そっ……そんな事……ない、
ないのよ───ふぁぁっ」
否定しようと必死に首を振るけれど、声は甘く、男を喜ばす艶を帯びていた。
肌だって、いつしかしっとりと細かな汗を結び、ぬくみに女の香りが匂い立つ。
なにより───
「そうか? じゃあこの音はなんだろうな」
ちゅぷりずちゅりと、律動のたび、潜りこみ、引き抜かれる剛直が肉襞を巻き上げるたびに、たっぷり湿り気を含んで立ちのぼる音が、言葉より雄弁に語っていた。
「あ……っ」
「それは、貴方が乱暴に動くから…あぁぅっ、私そんな音なんか…くひぃ……知らなっ…いぃ」
「なら……止めてみるか?」
男は、ぴたりと、動きを止めた。
「え───」
「あ……止める……?」
「あんた、感じてないって言うしな。それにほら、やっぱり無理矢理ってのはよくないだろ。だからもう――」
止めた腰を少し浮かせ、雄の器官をぬるぬると、かろうじて入り口付近に尖端が残っているくらいまで引き抜いて。
「やめてやるよ。あんたも、その方がいいんだろ?」
「あ――あの、私───」
「あの……あの……」
困惑したようなK香の表情、離れゆく男の体の下で、K香の臀が、剛直を追いかけたものかどうか、ためらいがちに浮かび上がりそうになっていて───
「でも……貴方は、K先生の、ご命令で。
貴方だって途中で止めたら……」
「俺のことなどどうでもいいんだよ」
「うぅ……どうしてそんな、
底意地の悪い……っ」
腰が、K香の腰が男を求めて迫り上がりかける。しかし男がその脇腹をきつく押さえて封じると、K香の顔が、崩れる、涙を孕んで。
「意地悪なもんか。
いやなんだろ、俺にされるの」
K香の心を鎧い、彼女のよりどころとなっていた理性と自制に亀裂が、一筋。
「……いや、です……」
その、たった一筋の亀裂が急速に広がって───
「わかったよ……なら」
「いやです、けど───
中途半端は、もっと、厭……!」
K香の中の理性はもうかろうじて形を残しているくらいで、それが、ついに───
「生殺しなんて、いや───
最後まで、お願いよ───!」
崩壊した。
男はそう、答えるの判りきっていたかのように、絶妙のタイミングで、ほとんど抜けかかっていた剛直を、不意打ち気味に深く深く沈める。
男には、女の胎内の形に合わせて、茎が角度を変えつつ貫いていくのが凄まじい快感となり、K香には、待ち焦がれていた雄の硬さ、圧力を叩きこまれるのが、目も眩みそうな悦楽となり。
「うぁはぁぁぁっ……深い、深いわ、
あなた───」
「ああ、素敵───私の、貴方の形に、広げられて……ッ」
「ひあ、はぅうぅ――私、こんな淫らな、
女じゃない……のに……」
「いやらしいこと、素敵、
好き、とめられないよぅ……っ」
「あ、あ、あ、あ、ふぁぁっ」
男ももう焦らしたりなどせず、むしろ堰を切ったように臀をうねらせて、男根を貪りはじめたK香に余裕を無くしたように、がむしゃらに貫きつづけた。
K香も最早、漏れ出る媚声をこらえきれないように、呂律や言葉遣いを幼くなるまで夢中で、ついには男の背中に腕を回し、快楽を引き寄せるようにしっかりと。
「あんた……すげぇ腰の使い方だな、
声もよ、あんあんよがって」
「あん……ばかぁ……そうやって、嬲って、
でもいいの、私、それがいいの……はふっ」
お互いの茂みがべとべとになるくらい、K香は蜜をあふれ出させ、男は身体の底にうねる快楽の渦に突き動かされるようにひたすら貪りつづけ――
「おお……そろそろだ……」
「え……あ、貴方、出す時は、
お願い、外、に……っ」
男は避妊具など、当然のように着けもせず、K香を貫いていたから、せめてそれだけはと留めようとした。
しかし、途方もないうねりが、男の腰の底から押し寄せ、剛直一点に収束していき───
「だめ、それだけは───はああ!」
K香は最後の一線ばかりは守ろうと腰を引き、迸りを外に解放しようとしたのだけれど。
「……駄目だね。ちゃんと中に種を仕込んでやれってのも、先生のご命令……だっ」
「そ、そんな……やぁぁ───!
いや───っ」
「しっかり……呑め、よ……っ」
「ひ……ああ〜っっ」
K香が藻掻くうちにも、男の最初の迸りが、輸精管の中を凄まじい勢いで駆け抜けていき───雄の本能の命じるままに、腰を、剛直をK香の最奥まで、子宮口まで貫いて、孕んで産めよと、───快楽の爆発。
「……え……? 熱い、熱いのが膣内に――しみこんで───」
「出てる───」
「あ、ああ……っ。妊娠……いや、赤ちゃん、私の、お腹の中にぃ……」
しかし、K香の肉体は。
理性など、哀しく、虚しく。
雄の子種を流しこまれたことで。
たやすく、あっさりと陥落し───
熱い粘液に、押し流されるように、絶頂を迎えてしまっていて。
男は、最後の一雫まで吐き出してから、快楽の果ての脱力感に、K香の首筋に鼻先を埋めた。
「私……妊娠……いや……ああ……ぁっ」
汗を含んで官能的な、K香の髪の匂いの中でそんな呟きを聞いたけれど、男の中にあるのは、射精の快感とそして、女を征服し、汚した事の歪んだ満足感ばかり。
やがて、いかにも満足そうに弛緩した男根が膣圧に押し出され、白濁が、充血して茹だった秘部から漏れ出し、ストッキングを着けたままの太腿に伝う。その量の多さといったら、溢れて溢れてなお留まらず、ついにはK香のブーツの内側まで入りこむ。
「どうして───私は───こんな」
───男の抱擁からようやく逃れたのは、全て終わってから。男がその獣欲を、全て吐き出し終えてから。ずるずると壁に背を滑らせ、しゃがみこんだ、K香の秘孔からまたごぽり、と白濁が逆流する。
「どうして……弱いの、私は───」
嘆く───深く深く、哀しく切なく。
快楽にこうも流されて、よろめいてしまう女の肉体を、K香は哀れに慨嘆する。
つい先だっても、こうやって男に、師事した男に種付けされて、孕んでしまった子を流してしまったばかりだというのに───
「きらい……男なんて……うう、う……っ」
嗚咽するK香を、しかしまだ哀しみと嘆きが足りないと言わんばかりに浴びせかけられたのが───閃光。
「な、なに!?」
ぎょっと顔を挙げれば、部屋の片隅に、いつの間に入りこんでいたのか、写真器具を携えて、閃光電球を構えた初老の男が、一人。
「せ、先生───!」
K香の最近の師であり、そして……肉体の主ともなった、大学の教授だった。この男の侵入にも気づかないほど、情交に溺れきっていた自分を、どう責めればいいのかK香には判らない。そこにまた、マグネシウムの閃光───
「先生、これは───写真?
私を写して───?」
この時代、ようやく写真撮影というものが大衆にも浸透してきていて、個人の撮影家も増えてきていた。純粋に芸術としての写真を追求する者も多かったが、その一方で。
「ああ。そうだよ。近頃僕は、撮影というものに凝っていてねえ。君は良い被写体になると推測したが、思ったとおりだ───」
「私の写真……こんな……姿……」
慌てて秘部を、情交の後を生々しく残す秘部を隠したけれど、もう遅い。
K香の痴態は既に乾板に焼きつけられた後。
自分のこの淫らで浅ましい姿が、影像として遺されてしまう。
それを知ったK香の嘆きと哀しみは、いよいよ深く───
「ひどい───ひどい───
どうして男の人達はみな、
私を、こんな───」
いまだ男性優位が確固たる社会に弄ばれる、女の痛切な啜り泣きは、何時までも果てしなく涙と共に絞り出された、夜の底で。


 

※       ※       ※

 ───とまあ、おおよそこんな風にして、猥褻写真というのは作られて、個人間で愛蔵されたり流出されたり、或いは冒頭のような場所で売りに出されたりしていたのです。
「───ちょっと」
なんです、K香さん。
「わざとらしい、そんな一文字ばっかり伏せ字にしたって! この映像はなんなのって訊いているのよ……っ?」
余計、「実話秘話」的ないかがわしさが増しますな。さしずめ『気鋭の女流学者の赤裸々な生態、女学者は夜の生活にも研究熱心』ってなとこでげすな、けっけっけ。
「なんて低俗な、下劣な……。大体この頃の写真というのはみんなモノクロームで、こんな色の着いたものなどなかったでしょうに」
ああ、着彩写真というものがありまして、白黒写真に後から色を塗ったりする技法もあったそうですよ。きっとそれでしょう。
「そんなとってつけたような……。目張りだって、申し訳程度で。
ひどい……ひどい……、
どうして私は、こんな役ばっかり……」