やあ、諸君。
私の名前をこれから宣うのであるが、忘れてもらおう。
私の名前はランドルフ。
ねじれて歪んだ都市の奥底で何かを求めて掘り続けてきた男だ。狂人と呼ばれ、それを自覚し、我が狂気の果てに待つものが何であるのかを半ば知りながらもそれを追い求め続けてきた男だ。こうして、土であるのか瓦礫であるのか、わからない暗闇を掘り進んできた男だ。
ただただ、この異形都市で。
ただただ、インガノックで。
そう、異形都市。
かつてそう呼ばれた都市がある。
それをインガノックと人々は呼ぶだろう。
あなたは、きみは、諸君はきっとそれを知っているのだろうと思う。
既に文明の灯りによって追いやられた《ふるきもの》たちが在った、41の声と幾つもの想いに満ちていた、閉ざされていた都市。閉ざされていた10年という時間の中で、数多の機関機械、数秘機関、現象数式、等々の異形技術が開花せし暗がりの都。
今は違う。
今は違う。
──そう。
──そうだとも。諸君。
既にインガノックは解放された。
インガノック歴10年、連合歴であれば恐らく534年か535年に、41の声は解き放たれたのであるから、既にここは異形都市と呼ぶには相応しくない。
けれど私は名を与えまい。
名は、インガノックで生きる彼らの何かを感じたあなたが呼べばよいから。私は言うまい。ただ、待とう。
私は待とう。
私は待とう。
こうして穴を掘り進めながら、ああ、私は、今まさに時の訪れを待つばかりなのだから。我が手がかき分けるものは土か瓦礫か暗闇か、その果てに行き着くもの。見るがいい我が友バベッジ、見るがいい我が友バイロン、そして、ローラ。
見えるかい。
見えるはずだ。
私の手が、今まさに掘り当てたものが何であるのか。
黄金螺旋階段を昇った彼が見たものは何であるのか。
伸ばされたその手の先にあったものが何であるのか。
空、であるとか。
色、であるとか。
既に私にはそれを呼ぶことはできない。
私はその言葉を失った。
見えるとも──
あの子のように、佇む彼か彼女のように、狂ってなどいなかった巡回医師のように。
さあ。
さあ。
──さあ。
──最後は、あの子に話してもらおう。
──耳を澄ませてくれるかい。
──聞こえるだろう、かすかに囁く、あの子の声が──
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