原画・大石竜子さんから発売記念イラストをいただきました!


■インガノック発売日記念更新



ニャ。紳士淑女の諸君、ごきげんよう。
儂はイル。あまたの世界を旅するおいぼれ猫だ。

今日は、久しぶりに西亨の極東都市トウキョウへ寄ってみることにした。
中でも電気街なる異名で呼ばれる雑多な街が、儂は好きでね。
以前にも1度だけ訪れたことがある。
さて、汽車の駅を降りて。と──


……おや? おやおや?

こんなに綺麗な駅だっただろうか。機械式の改札口になっているぞ?
変わるものだね。
そうか、あれからもう、暫く時が過ぎてしまったからかな。

◆     ◆     ◆

ともあれ、まずは駅の裏手に出よう。
ここには小さな公園があって、若者たちが車輪板や大きな球で遊んでいる。
都市に住まう鳥たちがそこらじゅうを歩いていて、踏まないように──


……おや?


……おやおや?

どうやら、公園はなくなってしまったようだ。
綺麗な高層建築が建っているようだね。
そうか、僅かな時の間に、公園は消えてしまったのかニャア。

◆     ◆     ◆

……気を取り直して、そうさね。
まずは腹ごしらえといこうかな。
ここには名物料理があってね、名前は『きじ丼』というのだ。
駅にくっつけて建てられた百貨店の1階に小さなお店があって──


……おや?


……おやおや?

どうやら、百貨店はなくなってしまったようだ。
閉鎖されて暫く経っているようだね。
そうか、僅かな時の間に、『きじ丼』は消えてしまったのかニャア。

◆     ◆     ◆

……はてさて。では次だ。
型落ちして流行ではなくなってしまった玩具を扱うお店があるのだよ。
この都市では、流行が大切なようだけれど、本来玩具はやはり玩具だ。
「きみにあげよう」と言えば、たいてい、多くの子供たちは笑顔をくれる。
だからこのお店の格安の玩具は、とても儂にはありがたく──


……あれ?

どうやら、お店は食べ物屋さんに変わってしまったようだ。
そうか、僅かな時間の間に、あのお店は旅立ってしまったのだニャア。

◆     ◆     ◆

……うん、よし。では次だ。
同人誌という、出版社を介さずに自由に書き手が作り上げた本がある。
その中でも価値あるものを取り扱ったり、手に入りにくい本を売ってくれたりするお店だ。
名前は『とらのあな』さん。
かつて来た時には、天王寺きつね先生の単行本が10,000エンで
ショーケースの中に置かれていてね。
うんうん。あれはよい買い物だった。
さて、今日は何か、掘り出し物はあるかな?


……この小さな雑居建築の2階に……。


……おやおや?

どうやら、違うお店に変わってしまったようだ。
そうか、僅かな時間の間に、ここも変わってしまったのだニャア。

◆     ◆     ◆

……うん、よし。では次だ。
さまざまな機械を取り扱うお店がある。名前は『LAOX』さん。
以前来たときには、テープに印字する小さな機械を買わせて貰ったものだ。
さあ、今日は何か、面白そうな機械はあるかな?


……おや?


……あれあれ?

まさかここも……。
そうか、僅かな時間の間に──


おお!?
これは、これは名こそ違えど『LAOX』さんである!
そうか、姿と名を変えてここにあるのだね。やあ、それは何よりだ。
うんうん。

◆     ◆     ◆

さてさて。『LAOX』さんで少しお土産を買えたぞ。
しかし、儂はなにぶん旅をしながら観ることしかできぬただのおいぼれ。
手持ちのカネなるものは基本的には持ち合わせておらん。
少し、カネを用立てておこうかな?
確かこの先に、銀行が──


……。


……綺麗な高層建築だったのだが。そうか。ないか。

◆     ◆     ◆


……おお、なるほど。

このマン=セイ橋は以前と何も変わっていないようだね。
渡し守の姿も、儂の知るものとなにひとつ変わっていない。
そうそう。そうだ。
確か、この向こうには鉄道博物館という、汽車を見せる場所が──


……おや?


……おやおや?

どうやら、博物館は閉鎖してしまったようだ。
そうか、僅かな時間の間に、交通博物館は旅立ってしまったのだニャア。

◆     ◆     ◆

……さてさて。気を取り直して、散策の続きだ。
折角だから、見知らぬ華やかなお店にも入ってみようか。
何か、儂も知らないような、面白いものが見つかるかも知れない。
どれどれ。


……ん?


……なんと!!

これは、これは、なんと『とらのあな』さん!
こんなに立派な建築物を建てていたのだね。やあ、これは驚いた。
うんうん、驚いた。そうか、こんなに立派に……。
ちょっと、中を覗いてみよう。

ふむふむなるほど。
可愛い娘の画が篆刻された箱が、たくさん……。
ふむふむ。


……お?


……これは……コニー……?

◆     ◆     ◆

他にも、華やかなお店を見て回ってみようか。
ふむふむ……。
おや? あの大きな貼り紙は……?


おお……。


おおお……。


おお! これは……!
これはすごい、おお……。


ふむふむ。綺麗なものだ。

しかし、こうも見事に綺麗な箱がたくさん泳いでおるものだね。
泳ぐ。そう、儂にはこれは泳いでおるように見えるのだ。
人の海の中を泳ぐ華やかな魚たち……。

魚……。

魚……?

ふむ……。

よし、では、ここはひとつ釣ってみるとしよう!

……。

…………。

………………。

おお?
おおおおおおおおおお!?
これは、おお! おおおー!

おお、おおおお、おおー!?
これはでかい、これはでかいぞー!!

何が釣れるか楽しみだ、ああ、何だろう!
誰が釣れるか楽しみだ、ああ、誰だろう?
おおお!


──ポン!

おお、おおお!
これは見事な綺麗な箱が釣れてしまった!
これは見事に幾つもあって、うまそうな!

しかし、しかし。
食べてしまってはかわいそうだ。
では、離してあげよう、さらばだ!

……リリース!


よしよし。元通りだね。
泳いでおゆき、綺麗な箱たちよ。

◆     ◆     ◆

……さてさて。すっかり歩き回ってしまったようだ。
それにしても、この街はだいぶ変わってしまったらしい。
儂の知るものはもう殆どない。
儂の知った電気街なるものは、もう──


……どうやら、そうでもないらしい。
そうか、ラジオセンターはおおむね昔のままで残っていたか。
どれ、お土産に、灯りの飾りでも買っていくとしようか。

そうだね。色は、そう。

燃えるような赤がよい。
炎の如く燃え上がる、赤がよい。

赤がよい、ニャア。

 

※おわり※





[sekien no inganock -what a beautiful people-] Liar-soft 21th by Hikaru Sakurai / Ryuko Oishi.
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