[黄雷のガクトゥーン previewstory 01]



「ネオン、ネオン。聞いてよ、アルベールったらまたさ」
「僕の紳士ぶりに何の文句があるんだい」
「ありまくりでしょ紳士じゃないでしょきみ」
「ん。僕以外のどこに紳士がいるって? 英語にはまだ慣れないなあ」
「もー」
「アルベールは、そこそこ紳士だと思うけど……」
「ほら。ネオンもこう言ってるぞ、イズミ」
「えー。授業中に居眠りする紳士なんかいないよー」

 

可愛いイズミ。
変わったカチューシャを頭につけて。
合衆国風でも英国風でもない訛りの、ふしぎな英語を話す子。

飄々としたアルベール。
パリっ子らしい自信に満ちた男の子。
学園公用語が英語なのはおかしい、といつも文句を言ってる。

ふたりとも。
あたしの同級生。
クラスメイト。
この洋上学園都市(アカデミア)でできた、初めての友達。

友達──

 

「僕を縛るのはきみたちお嬢さんの愛だけだとも」
「その台詞、別のクラスの子にも言っていたようだが?」
「む。そーなの、アルベール!」
「やめて下さいよシャルル先輩、そういう風に」
「嘘は言ってないつもりなんだが」
「……本当のことを言うのは」
「こら、アルベール!」

 

イズミはすごい。
まだ会ってそんなに日にちも経っていないのに。
こんな風に誰とも仲良くできる。

あたしは、どうだろう。
人見知りなほうではないと思うけど。

あの時、シャルル先輩が話し掛けてくれなかったら、多分。
こうして、教育区域の第24小公園で皆と話すこともなかったと思う。

少し──
まだ、尻込みしてしまう。
学園に対して。
学生に対して。

原因は色々考えられる。
……ああ、そう、あまり眠っていないから、かな。

 

「あはは。新入生の癖に色男っぽいねえ、アルベールって」
「校則違反じゃなければ構わん」
「あれ、公序良俗がどうとか言わないんだ」
「風紀警察の指針は校則だけだ。言わせんなっての」
「聞いたかい、ネオン? 校則違反じゃなければ何してもいいって」
「ええっと、そういうことじゃないと思います──」
「そうだぞ、アナベス。そうだ。お前は3年生なんだから、下級生にはだな」
「はーい、パパJJ」

 

アナベス先輩。
機関工学科の3年生で、すごい秀才。
カナダ訛りの英語の発音、素敵。

ここに入学できた学生たちは、皆、才能や素養があるって話だけど。
中でも先輩はすごい。
学園のいろんなことを知ってる。

全自動学習機関を何年間も使えば、あたしも碩学さまになれる?
実感は沸かない。
あんまり、頭は良いほうじゃないから。
数学なんてちんぷんんぷん。

風紀警察のひと──
ミスター・JJは、心配ないと言ってくれる。

留年はありえない。
皆、ひとかどの人物になって卒業していく、って。

 

「煙草なんてふかしちゃって、パパったら大人だな」
「パパじゃねえ。お前、授業にはちゃんと出てるんだろうな」
「出てるよ」
「真顔で嘘を吐けるってのはもう知ってるぞ」
「あーもう、僕の単位まで心配してくれるんだからパパってば」
「パパじゃねえっての」
「ふふ」
「あ、ネオン笑った」
「ネオン、お前までやめてくれよ。俺はまだ29だぞ」
「すみません、つい──」

 

つい、笑ってしまった。
ほっとして。
ううん、ほっとできて。

入学からまだ何日も過ぎていないのに、もう、こんな。
笑顔ひとつ出すのさえ難しくて。
どうにか、皆にはばれませんようにと神さまにそっと祈る。

神さま……。

神さま、か。
真面目に教会へ通っていた訳ではないから。
お願いしても、あたしの声は聞いていただけないかな。

そんなに、世界は甘くない。
ちゃんと知っている。

世界、っていうのは──

釣り合いっていうのが取れるようにできてる。
天秤。
ぐらぐら。

いいほう、わるいほう。
幸運なとき、不運なとき

幸福と、不幸
開放と、抑圧
進歩と、停滞

搾取。
支配。

搾取するひと、されるひと
支配するひと、されるひと
幸運なひと、不運なひと

そういうものはある。
あるっていうのはわかってる。

それでも──

 

「ネオン、アルベールには気を付けなきゃだめだからね」
「おいおい。どういう意味かな」
「言葉の通りの意味だろうさ、アルベール君」
「先輩まできついなあ」
「いざとなったらJJが何とかしてくれるさ。ね、パパJJ?」
「あー。不純異性交際は3年生まで禁止だぞ」
「ええっ」
「はは。本音が出たな、アルベール君」
「まったくもー!」

 

それでも。
今は。

今だけは。
皆と同じに、ただの学生でいたい。

そう、思って──

 


 

次回更新は9/5を予定しております。
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