「やあ、コローネ。一人かい?」
ニコルが一緒じゃなくて残念かい?
内装費用のほとんどをお風呂に使ってしまったため、杏里の部屋は本来の設備にほとんど手を加えていない。
石鹸とバスキューブの匂いが交じった空間は不思議と居心地がよくて、散歩の途中で立ち寄ることも多い。
スープ皿に注いだミルクを床に置いた杏里は、窓際のソファーに座って、ノロノロと靴下を履き始めた。
「今日は朝からざわついてるね。鼻がむずむずってするよ」
さすがだ。杏里が猟犬として生まれていないなんて、神様も悪戯がすぎる。
「まあ、気にしてもしょうがないか」
……まあ、そのこだわらなさってのが人間に生まれた理由なのかもな。
結局、杏里は勘以上の情報を持ち合わせていなかった。
カナエの元へ向かう杏里と一緒に部屋を出た俺は、そのまま次の場所へ足を向ける。
勘がダメなら、次は確実性。
固い情報が集まる場所と言えば、あそこしかない。

「一人で散歩? もうすぐ授業だから、あまり遊んであげられないわよ」
水が入った銀皿に、クッキーを添えて出したへレナの表情が固い。
自称とはいえ、学園の綱紀に心を砕くヘレナには、わずかなりとも情報が伝わっているのだろう。
聞きたい情報があるときは、黙って待つのも手だ。相手が犬なら油断して口も滑る。
俺は、その時を待って目の前のクッキーを口に入れた。
3つ目のクッキーを噛み砕いた時、ソファーに置いた花瓶の水を替えたヘレナが口を開いた。
「……下級生の子が襲われたらしいの……」
襲われた?
「どうもね。せ、性的な暴行らしいのよ」
性的暴行? ポーラースターで!?
ヘレナは机の上に飾った写真立てを持って、そこで笑う人物に語りかけるように言葉を紡ぐ。
「不安だわ、堪らなく胸騒ぎがする……」
寮の廊下を駆け抜ける。
乙女の花籠、H.B.Pで性的暴行?
そんなトラブルが起きるなんて、考えもしなかった。
「不幸はひとりではやって来ない……なんてことはないわよね」
俺を送り出したヘレナの呟きが、耳の奥に暗く反響している。
早くニコルの顔が見たい。
こんな不安は置いてきぼりにしてしまおう。
大廊下に出た俺は、さらにスピードを上げて駆け出した。
続く
■このコーナーでは、アンエピックで新たに追加・修正されたポーラースターの内装を毎回紹介していきます。第3回(6月中旬更新予定)は「ファン・ソヨン」「アルマ・ハミルトン」「アイーシャ・スカーレット・ヤン」の個室をご案内いたします。お楽しみに。