(visual:天原埜乃)
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  一同、焚き火の火灯りに照らし出された布地の、その色艶、軽やかな手触りにただただ言葉もなく見入るばかりであった。

  布地をそよがせる風に乗って、音色が流れ始める。
  始めは秘やかに、徐々に音を強くして。

アーシェ 「綺麗―――これは……シルクのサテン……? ううん、それよりもっと軽やかな。アーシェ、こんな生地、見たことない。
 それに、この紅色。光の加減で、闇のような深みも見せるし、ガラスみたいに薄く透けるわ……」

エミリア 「……そうだね。これほどの布地は、生地職人の秘蔵の品からも、滅多には出てこない―――宮里、あなたに心当たりは

宮里 「服飾の方面は疎いんだが、アーシェさんの言う通り、一見して練り絹の風合いに似てるな……いや……
 この糸自体がやや畝を帯びて、そしてこの軽さ、しなやかさ。どこかで同じような物を見たような―――そうか。
 これは、天蚕の糸で織った布地に似ているんだ。野生の蚕から採る糸なんだが、普通の絹に比べて、軽くて柔らかい」

ナチュ 「キカテ、私はこんな布地と色合い、これまで行き来した、どこの土地でも見たことない。
 これはどこから届いたものなの?」

キカテ 「詳しいことは私も知りませんよ。ただ、ここから北西の、山際の村の辺り。
 近頃その近辺で栽培されている花があるそうでね。その布はその花から取れる染料で染めてあるとかなんだとか」

  この不思議な紅色を現す染料の、元となる花と聞いた時、エミリアと智久のそれぞれの心に生じた強い予感がある。

  そして、まるでその予感に呼応したかのように、それまでは多彩な階調であれ、いずれも紅に根差した色合いを見せていた布地が。

  布地が。
  布地の紅が。
  一瞬、また一瞬。

  数瞬―――
  妖しい、奇しい。
  蒼い、光沢を放ったのだった。